NZガイド修行日記 PR

第17話 恋は彗星のように

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ええ~っと。今までは旅や日常のお話が多く、釣り好きの方は退屈だったかもしれません。
今回は、いつもより釣りの写真が多くなりますので、どうぞお楽しみに!

尚、冒頭にエゲツナイ表現がありますので、食事中の方は読み進めるのをご遠慮ください。

 

5月31日

朝、ベッドにはアッシュの姿はありませんでした。

床には、揉みくちゃになったベッドシーツと、その下に隠されたアッシュのゲロ。
ルームメイトは皆寝不足だったようで、一様にぐったりとしていました。

特にひどいのはアッシュの隣のベッドだった気の弱そうなイギリス人。

彼は、一睡もできなかったらしく、ヨロヨロと荷物をまとめていました。

昨晩、ちょっと話した時には、「ロトルアには、あと3日いるつもり」と言ってましたが、昨夜のことがあったものだから、「何があってもロトルアから出ていく!」とのことでした。

神経質そうな彼はいそいそと支度をしています。しばらくして彼は悲鳴にも似た声を上げました。

 

 

「信じられないよ、あいつ俺のカバンの中にも吐いてやがる!!」

そうです。アッシュはその気の毒なイギリス人のリュックサックを手繰り寄せて、おえ~ってやってました。

鬼のような男、アッシュ・・。

イギリス人は白い肌を紅潮させて怒りに震えており、実に気の毒でした。あまりにも悔しかったようで、泣き始めました。

さすがに可哀そうになり、僕とシンガポール人(こいつは熟睡していたので、昨夜のことは何も知らないという大物)は、濡れタオルやティッシュを持っていってあげました。

肩を震わせながら、

「ありがとう・・・・・ヒック・・」

着替えから何から全て大変なことになっていたので、まずは出て行く前に洗濯をすることになりました。

しか~し。洗濯場に行くと、先客である旅人が一斉にこちらに冷たい視線を投げかけます。

由はひとつ。ゲロ臭いから。

繊細な彼はこのことに、ひどくショックを受けたようでした。落ち窪んだ目が急に潤み始めたので、とりあえず私は言いました。

 

「川へ洗濯しに行こうか」

こいつに釣りでもやらせて元気付けてやろうという釣り人特有のお節介なのでした。

半ば冗談というのもあったのですが、彼はすかさず「ありがとう。行こうか」と言いました。

なぜか即答・・。しかもきっぱり口調で。
謎だ・・、外人はよく分からん・・。

ゲロ臭い洗い物をビニール袋に密封させると、いつもの川へ行くことにしました。

 

しかし、このゲロ臭い陰気で神経質な男と2人きりというのは気が重いものです。(え?僕が一番ひどい人間だって?)

そういえば、昨晩キッチンで会って仲良くなった韓国人のキムという男の子も釣りがやりたいと言っていたことを思い出し、奴も巻き込むことにしました。

誘ってみると、一発OK。奴も暇なようでした。

互いに自己紹介をしました。そういえば、イギリス人の名前をまだ知りませんでした。

ちなみに彼の名前は今はもう忘れてしまいました。と言うよりも、この晩、日記を書く時にはすでに忘れていました。(イギリス人よ、すまん)

 

キムが助手席に座り、2人の東洋人が運転中にヘタクソな英語で会話をしていると、後ろから、いちいち訂正してきます。これは結構、面白くて車内は明るい空気になったのでした。

釣り場までもう少しという頃になって、キムが言いました。

 

 

「なんかゲロ臭くない?」

うわ~言っちまったよ・・。

恐る恐るイギリス人を見ると、結構傷ついてます。ううっ、めんどくさい奴・・。
今まで会った旅人は大抵が豪快に笑い飛ばす明るい人間だったので、少々驚きです。

こんな繊細な人間がいるのか。ちょっと社会勉強・・。

 

そのまま、キムは何も無かったように話し続けました。イギリス人は無言で外を眺めていたのでした。

さあ、着きました。

支度を整えて、川へと向かいます。イギリス人は川に着くと、
「僕は洗濯してるから、君たち釣ってきなよ~」
と言うので、僕ら2人はお言葉に甘えて釣りを始めました。

1時間くらいして、一度彼の様子を見に行くと、とっても寂しそうに座っていました。
恨めしそうな顔をしていましたが、釣りに誘うと急に嬉しそうな表情が浮かびました。

2人で交互に竿とポイントを譲ってもらい、僕は魚を見つけたりと大好きなガイドに徹しました。

楽しい時間でした。

イギリス人は、お陰でロトルアで良い思い出ができたというようなことを嬉しそうに話していました。

結局、気を取り直した彼はもう1泊いることにしたようでした。

 

寝る前に一言、僕に向かって言いました。

 

「今日は、ありがとう・・、

 

 

TANYO。」

って、お~~~い、「タニョー」って誰だよ?僕はタローだぞ!

この国に来てからというもの、随分と色々な名前で呼ばれるなあ・・。まっいいか。

 

6月1日

早いものです。もう6月になりました。
朝起きると、イギリス人のベッドは空でした。

キッチンへ朝飯を作りに行くと、彼とキムが楽しそうに会話をしていました。朝からモリモリとご飯を食べているキムは今日も元気そうでした。

彼らはタウポに行くそうです。僕も誘われましたが、明日からトシさんと釣り行脚へ出る約束をしているので、断念。

僕は、同室のイングランドの若者にガイドを頼まれていたので、ここで別れを告げました。
イギリス人とキムが交互に握手を求めてきます。

「楽しかったよ、ありがとう・・

どうせ、また・・。

 

TANYO。」

やっぱりね・・(笑)。

キム、お前まで・・。昨日までタローって呼んでたのに。
まあいいか。

さあ、気を取り直してお仕事、お仕事。

この日は、魚の機嫌もよく、結果としては上々でした。

 

部屋に戻ると、何か隣の部屋が随分と騒がしくなっています。
廊下でたまたま臨時責任者であるローナに聞くと、性質の悪い若者集団がチェックインしたとのこと。

ああ、またか。最近は変なのが多いなあ。

これまではロトルアの中で最も快適、清潔、静か、リーズナブルと言われていたのに。可哀そうなローナ。

オーナー夫妻が旅行へ行き、彼女に代わってからというもの、ヘビーな客が目立つ気がする。

ローナは疲れきっていました。

「ちょっと休まないと、倒れちゃうよ」
「そうね。目の下なんか真っ黒よ。でも、これから仕事が一杯あるの・・」

175cmほどもある長身(推定)をゆっさゆっさと振りながら、ローナは仕事に向かったのでした。

 

シャワーを浴びた後、のんびりしていると、昼間ガイドをしたイングランドの若者・・名前を忘れてしまいました・・。
彼が飲みに誘ってくれたので、町中にあるお洒落なパブ「ピッグ&ホイッスル」へ行きました。

さんざん飲んで、騒いできたのでかなり眠くなってしまいました。
部屋に帰ると、グウグウと寝ちゃいました。

夜中の3時頃でしょうか。
とんでもなく大きな声で起こされました。
例の若者集団のようです。

ひどく酔っているようで、ギャーギャー騒いでいます。
しばらくすると、他の宿泊客が怒ったようで、静まりました。ふう、めでたしめでたし。

 

6月2日

今日で一度、宿を離れることになります。これから10日間ほど釣り行脚です。

チェックアウトをしようと受付へ行くと、ローナは過労で休みとのこと。代わりに僕の苦手なドナがいました。

このドナというおばさん、大柄でいつもしかめっ面。怖いんですよね~。
でも、今朝は何か雰囲気が違いました。

昨日、パーマをかけたようで、鼻唄混じりで鏡とにらめっこしてます。
「おはよう、ドナ」

「おはよう。チェックアウト?」
「ウン。髪型変えたんだね。似合うよ」

この一言がドナの心をグッと掴んだようで、いきなり初めて見せるような優しい表情になりました。実はメッチャいい人だったようです。

「行ってきま~す」と言うと、「気をつけてね~!」と手を振ってくれました。
朝から、こう対応されると気分が良くなりますね。

車に乗り込み、トシさんと合流するため、オキーフ(トシさんが勤めている釣具屋)へ。
町のスーパーで、これから当分の間、山ごもりなので食料を買い込みました。

牛乳は2Lだけ生のもので、残りの日数分は粉ミルクです。粉ミルクと言うと、なんだそりゃ?と思われるかもしれませんが、かなり重宝します。物資が手に入らない山では大事な栄養素なのです。

他に缶詰、パン、ベーコンの塊り・・。凄い量になりました。
でも、なんだか旅に出る!という感じがしてワクワクしちゃいます。

ロトルアから3時間以上も掛かるワイカレモアナという湖周辺を目指します。この場所は、どの町からも遠く離れているために、秘境チックな所です。

とんでもなく長く続くダート道を走り続け、日没後にようやく到着しました。

1泊40ドル(約2800円最大で6人まで泊まれるナイススポットです)の湖畔のキャビンを予約しておいたので、そこへチェックイン。

初日ということで、景気よく晩飯はステーキ食おうぜということになりました。

 


とんでもなく大きなサーロインステーキ。3枚で約700円ほど。
これにオニオンスープをつけて・・

 


立派なディナーの出来上がり~。

 

さあ、ご飯も食べたし、後は寝るだけなのですが・・。

そこは釣り馬鹿コンビです。これから湖で夜釣りです。NZでは夜の12時まで釣りをして良いことになっています。むしろ湖は夜釣りが一般的です。

鳥のウンコで汚い湖畔を歩いて、釣り始めました。

う~寒い。
でも、メゲズにキャストを繰り返します。

2回大きなアタリがありましたが、釣れず。
結局、僕が最後に1匹釣って終わりました。

 


こいつを。(笑)
まったく、大物天国NZで僕はこんな魚ばかり釣っています。

 

6月3日

朝はのんびり起きて、の~んびり朝食を食べて、の~んびり釣りへ行くことにしました。

この湖近辺は、禁漁区間が結構あるので、地図やガイドブックで確認すると、出発!キャビンの受付にいるおばさんに聞くと、良い場所を教えてくれました。

「夏はガイドが多いけど、今ならお客さんはいないからトラブルは無いはずよ」

サンキューおばちゃん。

 


川は渇水気味で、ポイントは絞りやすかったです。

釣れる魚は全てグッドな奴。写真の魚は少し痩せ気味でしたが、上流へガンガン走ってくれました。

随分と髪の毛が伸びました・・。ロン毛っす。

 


トシさんもヒット。
同じく良型です。この川は全てレインボートラウトでした。

 

フライは#12のオモリ用のヘビーニンフに#16のフェザントテイルのダブルニンフシステムでした。

ここは居るな・・という場所には必ず付いていたので、楽しかったですね。

 

日中は川で散々、遊び、イブニングは湖のリバーマウスへ。
晩秋なので日没は早目です。

みるみるうちに薄暗くなっていきました。

明るい内から真面目に竿を振り続けていたので、早くも僕は飽きてきました。
どうも湖の釣りが苦手です・・。

トシさんは、もとは湖派ということで無心に振り続けています。

アタリは全くなく、時間だけが過ぎていきます。
ゴロリと横になりたいのですが、鳥のウンコが気になって座るのさえ嫌です。

あ~ロッジに帰って、ご飯食べて酒飲んで寝たいなあ・・。

その結果、

 

 


置き竿(笑)。

ごめんよ、トシさん。
退屈だったんだよ~。

 

しかし、このしょーもない釣り人に神様は微笑んでくれたのでした。
いきなり、水飛沫を上げてフライが消えました。

慌てて竿に飛びつきますが、すでに遅し。
逃げられてしまいました・・。

ぬう・・、置き竿計画はダメだな・・。

その後は気を取り直して真面目に釣りましたが、1回も反応なし。
真っ暗になったし、帰ることにしました。

あ~星がきれい。
ヘッドランプを点けずに歩けます。
月と星が湖面に揺れ、水鳥はシルエットになっています。

車までの距離は結構あって、途中は暗い森の中です。
2人だからいいけど、1人じゃ無理ですね(笑)。

その時、がさがさ!と音がしました。

はうおっ!
と、思わず意味不明の言葉を発して振り向くと、

 


ポッサムがいました。

イタチと狸とネズミが合体したような動物です。害獣扱いされて、地元の人は見つけ次第、殺してます・・ナンマイダー。

こいつは夜行性で、よく道路で轢かれて死んでいるのを見かけます。

光を当てると動きが止まるので、その隙にシャッターを切りました。

 

キャビンに戻ると、腹ペコの胃袋にミートパイをぶち込みました。

ビールを飲んでいい気分・・。さあ寝ようかなと思っていたら、なんとトシさんは、これから釣りへ行くとのこと。

マジで!?
好きねえ、あなたも。

でも、僕も釣り馬鹿なので、「大物が釣れるかもよ?」の言葉に釣られて、行くことにしました。

僕には小さなアタリが1回あっただけでしたが、トシさんは釣りました。

 


根性ですな・・。
あなたはエライ!

体力の限界を感じるまで湖畔で釣り続け、ヨロヨロとキャビンに戻りました。

 

6月4日

なんと恐ろしいことにトシさんは朝の5時に起きて釣りへ行くと言ってましたが、風が強く、断念。

サボる気満々だった僕は妙に目が冴えてしまったので、2度寝できず、タイイングを昼過ぎまでしていました。トシさんは昼寝をしてます。起こしたろか・・

夕方近くになって風が収まってきたので、釣りへ行くことにしました。
肉が腐りそうだったので、昼飯とおやつを兼ねてステーキを食べて、出発!

一発大物がいると言われている発電所の前の放水口へ。

発電所について早速、竿を振っていると、地元の釣り人がやってきました。

僕らの存在を知って、「チッ、先客か」という顔をして去って行きました。それが3回ほどあったので、「これは、ひょっとすると凄い穴場なのかも!」と期待が持てます。

必死で頑張ること3時間。ついにトシさんの竿が絞り込まれました。

リールは唸りを上げて、ラインはどんどん引き出されていきます。
ようやく岸に寄ってきたのは、60cm程の太ったレインボートラウト。

僕は、どうもシンキングラインを投げて引っ張るという作業を長時間続けることに耐えられず、川岸にあるベンチに寝そべってイビキをかいてました。半分フテ寝ですけど。

夜の11時近くになると、かなり冷え込んできます。

僕が、「トシさ~ん、もう帰ろうよ~、キャビンで酒飲もうよ~」と、繰り返すと、僕のマイナスパワーが彼の釣り魂を包み込み、キャビンに帰ることになりました。

当然、酒。
オヤスミナサイ・・。

 

6月5日

よっ、待ってました~!
本日は僕が希望した川で釣りです。
釣りまっせ~~!

やる気満々で、ロッジからウェーダーを履いてあります。
竿にもラインを通してあり後は川に入るだけ~。

 


目の前に巨大な魚を発見。こんなに近いのだから釣れないだろうな~・・。
ダメもとでニンフを入れると、ぱくり。

 


実に素晴らしい魚でした。

珍しく、本気で水中にカメラを入れて撮影。
綺麗でしょ?

湖では寝てばかりの僕でしたが、川なら大喜び!
夢中で釣りまくりました。

結果は60cm近いレインボーを数匹という素晴らしい結果でした。
いや~お腹いっぱい。シアワセ。

 

さあ勢い付いたので、今夜も張り切って湖へ!
今日はどうしたことでしょう。
ノリノリです。

いつも湖では眠いよ~、腹減ったよ~退屈だよ~と駄々っ子な僕の竿に反応あり。
しかし、痛恨のバラシ。

ルミナスをボディーに仕込んだ色気ムンムンのマドラーミノーにドッカ~ンと出たのですが・・。

恐らく手応えからして60cm程だったと思います。

はあうっ・・。
今夜はヤケ酒じゃ~。と、心に誓って車へ戻る長い森の道を歩き始めると、10メートル前方で大きな獣が横切っていきました。おそらくイノシシでしょう。

獣道が林道を横切っていたのでしょうかねえ。

ほんの少し前を歩いていたら、跳ね飛ばされるところでした。
ふう、危ない。

「トシさん、危なかったねえ~」と、キャイキャイはしゃぎながらキャビンに帰ったのは11時過ぎ。

毎日こんなことやったら過労で死んじゃいます。でも、釣りして死ぬのならいいかな?
箱ワインの残りをちょっとだけ飲んで寝ました。

 

6月6日

朝から雨・・。
こんな日に限ってキャビンを出るのです。

これからテント生活だというのに雨かい!

そうです。
今日で快適なキャビンとは、おさらば。
ただでさえ辺鄙な所なのに、これよりも更に辺鄙な土地を目指します。

農場、岩山、森・・。

何も無い所ですが、魚は凄いのがいるらしいのです。
さあ気合いを入れて秘境中の秘境へGO!

 

延々と続くスーパーダートを走ること2時間。
ようやく着きました。

今日から数日お世話になる川に手を合わせて、日が落ちる前にまずは設営。

 


目の前は、川です。
さっさとテントを張って、晩御飯の食材を確認しておきます。
夜になって釣りから帰ってきても大丈夫なようにです。

幸いなことに雨も止み、晴れ間が覗きました。
よっしゃ~釣りじゃあ~!

トシさんに先行してもらい、僕は後からネチッこく釣り上がることにしました。
かなり規模が大きい川なので、先行者が1人くらいなら、さほど問題無いのです。

 


いきなりドスコイ!
2Xのティペットが切れる寸前でした。

こいつはブラウンですが、レインボーのように走り、ジャンプし、僕を翻弄しました。

こんなに大きな魚でもヒットフライは#16。
TMC100SPは、頑丈なフックなのでヘマさえしなければ伸びることは殆どありません。

日本からもっとたくさん持ち込むのだった・・。

 


どうじゃ~これでもか~という感じです。

今度はレインボー。

バッキングまで出されたので、これは無理だと思ったのですが、執念で岸を走って追いかけて遂にランディング。

 


もちろんトシさんも一杯釣ってました。

これは、シャッターを切る寸前に逃げ出したお魚。
ナイスショット。

元気がいいんですよ、この川の魚は。

 


これほど素晴らしい魚がたくさん釣れるのは、釣りのルールがきっちりと守られているからです。

日本も、こういうところはNZを見習って欲しいものです。

 

今日は、それこそ疲れ果てるほど釣りました。
なので早めに5時で終了。

さあ飯じゃ~い。

ロトルアで買っておいた食料で日持ちがしないのは、この日に全て食べ尽くすことにしました。

残しておいても腐るだけですからね。

ベーコンの塊りをナイフで切って、そのまま口へ運び、パンにかぶりつく。
うまい。でも、肉類はベーコンだけになってしまった・・。

今考えると、凄まじいメニューでしたが、お空の下では何だっておいしいのです。

腹いっぱい食べたので、酒でも飲んで寝るべえ・・。のコースかな?と思ったのですが、無性に釣りたくなりました。

昼間あんだけ釣っておいて、まだ足りないの?と思われるかもしれませんが、これが不思議。

トシさんは、得意の湖用のフライを結んでやる気十分です。

僕も・・。の前に、うんこ。(お食事中の方がいらしたら、失礼)
テントから離れており、いい具合に木があったので、近くに穴を掘って済ますことにしました。

しか~し。スコップが無いし、土が硬くて掘れません。

仕方が無い。
目の前の水洗便所(川)で済ますしかありません。(下流で釣りする皆さん、ごめんなさい)

プールの終わりで瀬が始まる所へ恐る恐るサンダルで近づき、石の上に乗って上流を向いてしゃがみました。

プールの水面は鏡のようになり、綺麗な月を映してました。
しゃがみながら、そこを見つめていると、何やら一瞬影が動きました。
何奴!

見逃してしまったので、目を凝らして覗き込みます。
なんと巨大なウナギでした。

ちん○んを食べられてしまうと大変なので(この場合は海外旅行者保険はきくのだろうか?)、慌てて立ち上がって岸へ脱出。

ふう危ない。

 

上流で歓喜の咆哮が上がり、トシさんが釣れたのが分かりました。

僕は釣りどころではなく、ウナギを探すのに夢中です。

こんなでっかいウナギを自然の川で見たのは初めてだったので、何としてでも生け捕りにしたかったのです。
結局ダメでしたけど。

 

この晩、トシさんは車で寝たいとのことだったので、僕はテントを独り占めできました。

川のせせらぎ、ひんやりとした夜気。
テントは良いものです。

そして、

 

 

大雨。

またかよ・・。
このテントを張ると、必ず雨が降るという無敵のジンクス・・。
やはり無敵には勝てません。

しかし、ウナギも捕まえられなかったし、雨が嫌で車の中で寝てしまったら、全てに負けたような気がしてなりません。

僕は負けないぞ~という意味不明の情熱に動かされて、雨漏り対策として洗い物をテントのグランドシートの端に並べました。

以前のトンガリロの大雨の時、そこから浸水してきたのを見ていたからです。

この経験は活かされ、快適な夜を過ごすことができました。汗臭い靴下やパンツに囲まれて安眠。

釣り馬鹿は逞しいのでした。
なんだか試練に打ち勝ったようで、すっごく嬉しかった・・。

 

6月7日

本日は快晴!
濡れたテントや荷物を干すチャンスです。

目の前の川を眺めてみると、雨の濁りが若干入っているものの、釣りはできそうです。
さっさと洗濯を済ませて釣りへ行くことにしました。

テントから全ての物を取り出し、風を入れました。こうしておかないと、カビが生えてしまいますからね。

以前、国内釣り行脚で山形へ行った際、テントが飛ばされるというアクシデントがあったので、その教訓を活かしてしっかりと固定しておきました。

お~天気が良いから乾く、乾く。

さあ、朝ごはんのパンをかじって、釣りです。
食パンは部分的にカビが生えてきたので、そこを避けてモグモグ。

今日は僕が先行させてもらいました。
おお~好きな所に一番乗りでニンフをぶち込める幸福。
例えようがありません・・。

釣れる、釣れる・・。

 


60cmを楽に越すブラウンがビシバシ。

この川は、夏の間は、釣り人に集中的に叩かれるので、この時期は狙い目なのでしょう。

NZの釣りは夏だけと思っているあなた!
時期をずらすことも考慮してみてください。

 

余談ですが、例えばセミ。
これは当たり外れの年があり、ムラがあります。

でも、北島では3月中旬ぐらいからレースウィングという#18くらいの虫が大量羽化し、それに合わせたドライの釣りができるのです。

4月になれば南島のマタウラではドライフライのフィーバーになりますし、ドライフライに限って言えば、この時期はおいしいです。

セミの豪快な釣りもいいですが、夏は釣り人が多すぎるので、リスクも大きいです。
それよりも、個人的には夏以外の釣りの方が日本人には向いている気がするのですが・・。

でもまあ、これは好みの問題ですかねえ。

 

そ・れ・よ・り・も!
ニンフの釣りは面白い!!!!!!!

正直な話、僕はNZへ来る前はニンフなんて殆ど使ったことはありませんでした。
なんか餌釣り的な匂いがしたからです。そういう人はきっと多いと思います。

「ニンフを使ったら、簡単に釣れちゃうからね」
な~んて言う人が結構多いですが、実際にやらせてみると全く釣れなかったりします。僕もそうでした。

このニンフを徹底的にやり込むと、正直な話、世界が急に広くなります。
実に奥が深い世界です。

あんまり熱く語りすぎると、釣りをやらない読者の方々が可哀そうなので、この辺にしておきます。まあ、いずれ機会を設けて熱く語っちゃいます。

 

さて、快進撃は続きます。

釣れるのは全てワールドクラスのブラウン、レインボー。
腕がだるくなってしまいます。

大物とのファイトの経験をたくさん積むことができました。

ラインの抵抗でフックが外されたり、糸が切れるのでラインをなるべく出されないようにすること。

竿、糸、リールの限界を知ること。

魚の体力の奪い方・・

 

実に勉強になりました。お魚さんありがとう。
また、教えてね~。

 


楽しみの昼ご飯は青空の下でのラーメン。
「今日は贅沢して卵も入れちゃおうぜ!」

物資が手に入らない山奥では最高の食事でした。

 

対岸に一本支流を見つけ、行ってみようぜということになりましたが、水量がとんでもない状態だったので、やめておきました。

試しに片足を浸けると、持って行かれそうになりましたから。

 

散々、釣りまくって車に戻りました。
良かった~、車上荒らしには遭ってませんでした。

NZは危険な生き物はいないのでその点安心なのですが、車上荒らしが多くて困ってしまいます。

停めると危険なエリアがはっきりしているので、NZへ釣りでお越しの際はできるだけ、というよりも必ずガイドを雇うことをオススメします。

こんな山奥で車を盗まれたら死ぬ可能性だってあるわけですから。お~怖い。

さあ、寝床の確保です。
トシさんは長身なので車中泊は大変だったようで、今夜から僕のテントで寝ることになりました。

だから言ったでしょ、トシさん(笑)。

暗くなる前にシュラフを運び、雨が降った時のことを考えて防水対策用の洗濯物を用意しておきました。

案の定、今夜も大雨。

天井はゴアテックスなので浸水の心配はありませんが、グランドシートから大洪水・・。
僕らは睡眠不足の一夜を明かしました。

 

6月9日

朝も雨は降り続いており、睡眠不足でヨロヨロです。
でも、妙にハイテンションになっており、「しりとり」で盛り上がりました。

小降りになったのを見計らい、さっさとテントを片付けました。

川を見ると、濁流です。
岸沿いを狙えばいけそうでしたが、増水の仕方が危険な感じだったので、断念。

本当は、しばらくこの川を探検するつもりだったのですが、急遽ワイカレモアナ湖まで戻ることにしました。

雨によって疲労が溜まっていたので、キャビンを借りることにしました。さすがオフシーズン。部屋を確保できました。

この日は、外は大雨だったので、僕は釣りへは行かず、テントや道具の補修にあてました。

トシさんは「もうNZでこれだけのんびり釣りする機会は無い!だから今はトコトン釣りをするんだ!」と言って、大雨の中、釣りへ行きました。

僕は、気楽な一人身なので、また来るからいいや~ぐらいに考えてましたので、キャビンでのんびりしました。

暗くなりかけた頃、トシさんがびしょ濡れになって帰ってきました。

晩飯の用意をしておいたので、すぐに食事。
今日のお互いの報告をしあいました。

そして、夜は懲りずに「しりとり」。
どちらかが眠りに落ちるまで続くサドンデス。
今のところ僕は連敗です。

「しりとり」も同じメンバー(と言っても2人ですが)でやっていると、ネタが尽きてきます。

次第にひどくなり、

 

 

ニジマスの卵

OK,OKです。
これくらいは許容してもらわないと盛り上がりません。

少しでも勝利につなげるためにエゲツナイ攻めをしたりもします。

「ポ」とか来られると、結構つらいです。最初はまだネタがあるからいいですけど。

そういう場合は、「ポ」で返してやります。
例えば、・・・・・・

 

 

ポメラニアンのしっぽ

OK、OK。
でも、ムチャクチャです(笑)。

こんなしょうもない事を話したかと思うと、将来の夢をお互いに熱く語ったりもします。
気の合う仲間とは良いものです。

知らない内に僕は眠りに落ちていました。
今回も僕の負けのようでした。

 

6月10日

今日も雨・・。
NZの北島では、冬は最も雨が多いようで、嫌になってしまいます。

このエリアにいても釣りができそうにないので、ムルパラに寄って釣りまくることにしました。

どのみち帰りは遅くなるので、ロトルアで宿が取れません。トシさんのホームステイ先のマイクの家に泊めてもらうことにしました。

大物ブラウンがいる川と湖へ・・。

しかし、この日は芳しくなく、少しだけ釣れました。サイズもムルパラの平均サイズ・・。
夜になると、異常に冷え込んできたので、撤収。

久々の「町」に戻ると、文明の素晴らしさにいたく感動・・。

電気っていいねえ・・。
思わず僕らは呟きました・・。

マイクは相変わらず酒が好きで、飲もうぜということになり、疲れて閉じかける目蓋をこじ開けて、宴会をしました。

女房のエリンは、呆れて寝てしまいました。

 

6月11日

ゆっくり9時まで寝てしまいました。

コーヒーを飲みながら、デジカメの写真をチェックすると、マイクに見せて旅の経過を話しました。

トシさんとマイクは仕事なので、僕はCBPへ宿の予約をしに行きました。

例の怖い顔をしたドナがいました。
僕に気付くと、ニッコリ笑って出迎えてくれました。

「やあ、ドナ!」
「ありゃまあ、また帰ってきたの!16号室がいいんだったよね?」

「うん」
「ラッキーね。ひとつ空いてるわ。どうする、とりあえず1週間押さえておく?」
「うん、お願いするよ」

慣れた宿なので自分の家みたいです。

なんだか海外生活に慣れたベテランになった気がして嬉しくなってしまいます。ちょっと大人になった気分。

宿に荷物を放り込むと、ルームメイトに挨拶しました。

この日は、日本人の女の子が1人、スイスの女の子2人、フランス人のおばちゃんが1人、ドイツ人のお兄さんが1人でした。

スイス人は今日、入国したばかりということで凄くテンションが高かったです。
日本人は凄く内向的なようで、窓の外を眺めてブツブツ呟いていました。

久し振りに自分ひとりの食事なので、人恋しくて一緒に晩御飯を食べる相手を探しました。

同室のフランス人のおばちゃん(おばあちゃんに近い微妙なお歳)に声を掛けると、「いいわよ~」とニッコリ笑って返されました。

旅の出会いは、いいものです。

 

シャワーを先に済ませておき、キッチンが混雑する時間をかわして、のんびりと食事をするのが僕の生活パターンです。

人がまばらなキッチンで、おばちゃんと話しながら食事を楽しみました。隣の部屋に泊まっていたイングランドのおばちゃんも仲間になって、3人で食後もずっとおしゃべりをしました。

フランス人のオバちゃんの名前は・・マ・・何とか(笑)。フランス人名の発音は難しい・・。便宜上、マリーとします。

イングランドのオバちゃんの名前は忘れました(キッパリ)。ごめんなさい、日記に書き忘れていたので今はもう分かりません。

マリーは、数年前にご主人に先立たれ、随分と寂しい時間を過ごしていたらしく、気を紛らわせるのに頻繁に旅へ出たらしいのですが・・。

その旅の数回目が今回のNZだったらしく、そこでの素敵な出逢いを話してくれました。

同じく奥さんを早くに亡くしてしまったイギリス人の男性(年齢はマリーと同じくらい)とバスが同じだったのが縁で、オークランドから始まり、数日間を一緒に観光したようなのです。

彼との時間はとても楽しかったようでした。

彼と一緒にワイナリー(ワイン工場)を訪ねたら、誰もいなくて入れず、近くのアイスクリーム屋さんでアイスを食べて帰ってきたこと、マリーは生まれて初めて日本料理を食べたこと、刺身を食べるのに抵抗があり、渋っているのを彼に笑われた時のこと・・。

 

はっきり言ってしまえば、のろけ話なのですが(笑)、嬉しそうに話すマリーはとても幸せそうでついつい僕らは聞き入ってしまいました。

「でもね、明日が最後なの。あの人はイギリスへ帰るためにロトルアを出るわ。私は明日からタウポ。明日の朝、バス停で見送ったらお別れね・・」

マリーは寂しそうでした。
イングランドのおばちゃんと僕は、ただ黙って話を聞いていました。

もっと話を聞いていたかったのですが、夜も遅くなってきたのでお話会はお開きに。

マリーは、しばらくキッチンでワインを飲むようだったので、酒なら僕も!と言いたかったのですが、イングランドのおばちゃんが僕を談話室へ引きずっていきました。

1人にさせてあげようという大人の優しさでしょうね。

 

談話室のイスに掛けると、おばちゃんは話しました。

「マリーはね、知ってるの。明日で2人は永遠のお別れになることをね」
「えっ、なんで?連絡を取り合ってまた会えばいいじゃない」

「う~ん、なかなかね。そうもいかないのよ」
ちょっと子ども扱いされたような気がしたので僕は少しムスッとしてしまいました(笑)。

 

一呼吸置いてから、おばちゃんは言いました。

「旅先の恋はね、一瞬きらめく彗星のようなものなの」

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6月12日

7時半ぐらいに起きると、マリーのベッドは空でした。
キッチンに行くと、パンをかじっているのを見て、ほっとひと安心。

マリーは、荷物をまとめて受付でチェックアウトをしました。

「これからタウポへ行くわ。タロー楽しかったわよ」
「こちらこそ楽しかったよ。おじさんにヨロシクね」

そろそろ、おじさんのバスの時間のようです。
マリーは、小さなスーツケースを転がして宿の玄関を出ようとしました。

そこには、1人の紳士が立っていました。

マリーは、一瞬驚き、嬉しそうに近寄っていきました。
「バス停まで一緒に行きましょうか」
彼女は、はにかみながら話しました。

マリーと紳士は軽く手を上げると、去っていきました。

 

恋は彗星のように。

僕は、おばちゃんが言ったセリフを思い出しながら、また2人がどこかでめぐり逢うことを願うのでした。

今回は、これでおしまい。