NZガイド修行日記 PR

第4話 初めての鱒

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プジョーには引越しのための荷物が満載され、オークランドより車で走ること3時間・・
一路ロトルアを目指します。

この国は、郊外へ出てしまえば、基本的に制限速度は100キロとなっており、実質上、高速道路となっています。

 

オークランドの街を離れると、そこには空のように広く感じられる牧場と、それに白い綿のようにくっつく羊が目に飛び込んできました。

入国後初めての郊外なので、その光景はとても新鮮であり、わき見運転ばかりしてしまいます。危ない、危ない。

ロトルアに入る前の小さな町のケンタッキーで昼食を済ませ、ついでに釣具屋さんへ立ち寄り、年券を買っておきました。ああ、いよいよ鱒釣りができます・・

それから走ること小一時間、ついにこれから生活する家に到着しました。(家や車の写真は、次回にでも掲載するつもりです)

時間は午後5時。
積んできた荷物を家に放り込むと、馬部さんが「釣りに行こうか!」と一言。

いよっ、待ってました!

合点承知と、慌てて釣具を引っ張り出してくると、馬部さんから地図を渡されました。ひょっとして、一人で行って来いと・・

 

 

その通り。

どうやら、馬部さんは日中のうちに荷物の整理をしたいようです。
NZへ来て一週間もオアズケを食らっていた僕に気を遣ってくれたようでした。

全くの初めての土地で、しかも、もうすぐ日没という時に単独の釣行は、正直不安でしたが、とにかく川を見たい!という欲求が先行し、車を走らせました。

お借りした地図は、全国ドライブマップのような広域図であり、「この辺だよ」と指で隠れた距離だけで10キロはありそうでした。こんなアバウトな地図で着くのだろうか・・

オークランドで死ぬような思いをしてからというもの、地図の重要性は分っているつもりです。

でも、まあ何とかなるだろう!

 

 

何とかなっちゃった

恐ろしいことに何とかなってしまいました。というより、道がオークランドとは比較にならないくらい簡単なのです。

超方向音痴の僕でも楽勝・・「この辺」というだけで着けてしまうのが恐ろしい・・

 


湖へ流れ込む某河川です。湧水の川らしく、澄み切った水がゆっくりと流れています。見たところ魚影は無く、魚の気配はしないのですが、とにかく釣りの準備を始めました。

 

その時です。砂煙を上げて白いバンが走ってきました。
それも、こちらへ向かっています。ただならぬスピードで向かってくるので、思わず身の危険を感じてしまいました。

20メートルほど手前で車を停めると、大柄な白人が下りてきました。

「ハ~イ!」とイクラちゃんばりの挨拶をしようと思うと、いきなり怒鳴られてしまいました。

必死で聞き取るまでも無く、何となく言っていることが分りました。こういう時の言葉は万国共通のようです。

「おい、お前。このポイントは俺が今やろうと思っていたんだ。何でお前がいるんだ?」というような内容でした。

別に禁漁区でもないし、ここはリバーマウス(湖への流れ込み)なので、先行者の頭ハネができるような所でもありません。

 

最初は恐怖を感じていただけだったのですが、段々、腹が立ってきました。

 

 

何言ってやがる・・

この野郎、好き勝手言いやがって。
冗談じゃない。そんな理由で引き下がってたまるか!
無視して釣りの支度を始めました。

その男は、ちくしょーという感じのセリフを吐いて、竿を車に放り込み、エンジンを掛けました。

やっとうるさいのがいなくなったか。と思った瞬間、物凄いエンジンの唸り声が聞こえてきます。

白いオンボロのバンがマックスターンのような動きをし、砂埃を上げ始めました。

濛々と立ち込める砂煙に咳き込みながら、走り去る奴を見ると、中指を立てられていました。

とてつもない悪意を感じた後・・

 

怖えよ~!!!!!!!!

途端に恐怖が込み上げてきました。
アメリカなどの銃社会なら撃たれてたのかな・・?(そんなわけないか・・)

ああ、よく殴られなかったものだ・・

情けない話ですが、その場にいるのが急に怖くなってきたので、立ち去ることにしました。

続いて湖を数箇所、見て歩きましたが、何の生命反応も感じられなかったので、竿を出さずに下見だけして帰って来ました。

家に帰って馬部さんにいきさつを話すと、「え~、別に禁漁区なんかじゃないよ。それじゃ、一緒に行ってみる?」と言われたのでお願いしました。

事件のあった現場へと向かうと、やはり釣りをするのに全く問題は無いようでした。
その後、数箇所、有望なポイントを教えてもらい、家に戻りました。

はあ・・全く到着早々、恐ろしい目に遭ったものです。
こうして、初日はただの一度もフライラインが着水することなく終わりました。

 

10月23日

今日は、馬部さんに詳細図を借り、具体的なポイントまで教えてもらいました。ムルパラ方面のスプリングクリークです。

ただ、ここは入渓点が分りにくいようなので、注意して探してね。と付け加えられました。よし!今日こそ、釣りをするぞ!

目的地付近まで、迷うことなく辿り着いたのですが、やはり川がどこにあるのかさっぱり分りません。

森の中を歩き回ったのですが・・川など見当たらないのです。
その内、ふと気が付きました。

 

 

迷っちゃった。

またです!オークランドで卒業かと思いきや、またやっちまいました。

地図を見るのですが、小さな林道までは載っているはずもなく、いよいよヤバイことになってきています。

 


地図と森の小道。

 

まあ、こんな時は焦っても仕方がありません。
昼ごはんでも食べるとします。

 


チョコレートとジュースの簡単ランチを5秒で済ますと、再び森の道を歩き始めました。多分、こっちだろうと適当に歩いていくと、やがてかすかにトラックが走る音が聞こえてきました。

その方向を記憶しておき、道を無視して一気に突き進みました。

すると、車の近くにひょっこり出て、一安心。
う~ん、何とかなるものだ。

とりあえず、再度地図で確認をしました。
う~ん、分らない。おっかしいな~、この辺のはずなのに。

悩んでいると、グリーンのフォレスターが、砂埃を上げながら走ってきます。
砂埃・・またか?昨日の出来事が脳裏をかすめました。

助手席の窓が開くと、髭のおじちゃんが、「ハ~イ。どうしました、道に迷ったのですか?」と声をかけてくれました。同じような白人男性と二人です。

地図を見せろと言うので、言われた通りにすると、「ああ、この川は分りにくいよ。ところで君の車はどこにあるの?」と言うので、あっちです。と指差した。

「うーん、遠いな・・。OK。まあ乗りなよ。君の車のところまで乗せてあげるから、その後、僕らの後をついておいで」

見知らぬおじさんの車に乗るのは怖かったのですが、せっかくのご厚意です。甘えました。

後部座席にちょこんと座ると、僕のプジョーへ向けて走り始めました。心配していたようなことはなく、無事に着きました。急いでプジョーのエンジンを掛けると、フォレスターの後ろをついていきます。

やがて、停まり、おじさんが降りてきました。

「分りにくいけど、ここだよ。ほら、見えるだろ?ここで釣りをするのはいいけど、盗難が多いから、荷物は全部、トランクに入れておくんだよ」と、親切に教えてくれました。

なんと、良い人だろう・・
昨日の奴とは大違いだ。

過剰なくらい御礼を言うと、おじちゃんは大きく笑って、「気にするな。とにかく釣れるといいね!」と一言。

英語で御礼を言い終えた後、日本式に

ありがとうございました!

と言っておきました。これも、万国共通なようで、満足そうに頷くと、去っていきました。
会話はハートなのねえと、思った瞬間でありました・・

 


ようやく辿り着き、入渓点を探しながら歩きました。
綺麗なスプリングクリークです。
おっ、小さいですが、魚も見えます。

 

しかし、鏡のような水面。
ここは、慎重なストーキングで近づかなければなりません。

一歩一歩、にじり寄ると、いきなり足元が沈みました。
物凄い音がして、体が地面にめり込んでいきます!
スプリングクリーク特有の穴のようです・・

身の危険よりも先に思わず、魚が逃げていないかを確認しようと、見てみました。

 

いらっしゃらない!

やはり、あれだけの凄まじい音を立てた後です。
いるわけがありません。

しかし、そんな場合ではないようです。何とかこの状況から脱出しなければなりません。泥まみれになって、必死で近くの草を掴みました。

 

痛てぇぇ~

悪名高いブラックベリーというトゲトゲの草です。指先と手に鋭い痛みが走りましたが、泥に飲まれるよりもマシです。痛みを堪えて、必死で脱出しました。

ああ、怖かった。本当に死ぬかと思いましたよ。

更に突き進むと、流れの真ん中に40cmほどの綺麗なニジマスが泳いでいるのが見えました。しかも、ライズを繰り返しています。よっしゃ。もらった!

静かにラインを引き出し、キャストのタイミングを計ります。限りなく止水に近いのでおそらく一撃で決めないと終わりでしょう。

一度強めにバックキャストをし、一気にラインを出しました。
少し鱒よりも遠めに着水しましたが、まあ何とかなりそうな流れ方です。
あとは、食うのを待つのみ。

そして、フライが近づいた時に、鱒が浮いてきました。しかし、一瞥をくれてUターン。
静かにピックアップをし、今度は少し近づこうと一歩を踏み出しました。

 

 

またかよ!

某お笑い芸人のような一人ツッコミをし、左足が沈み始めました。
そして、慌てて再び、ブラックベリーを握り締め、悲鳴を上げます。

うきょ~という聞きなれない悲鳴に恐れをなしたか、鱒どもは逃げてしまいました。

結局、その先は、忌々しいブラックベリーの壁に阻まれて先へ行けません。
今回は、大人しく諦めて帰ることにしました。

そのまま、家へ帰るのは悔しかったので、イブニングを近所の川で迎えることにしました。
6時になっても明るいので、アクセスに問題はありません。

川には釣り人が何人かおり、みんなルアーを投げていました。
釣れますか?と聞いてみると、みんなNO。

白人の若い兄ちゃんが、良かったら一緒に釣ろうよ!言ってくれたので、一緒にさせてもらうことにしました。

この兄ちゃんは、オークランドで先月まで暮らしていたらしいのですが、都会の生活に疲れてしまい、転職をしてロトルアへ越してきたそうです。

日本から鱒を釣りに来たと言うと、好きだねえ~。でも、分るよ。と理解を示してくれ、友好的な会話は尚も続きました。

しかし、僕のヘタクソな英語では日常会話を続けるのに限界があります。
会話が途切れると、何となく間が訪れます。
そんな時は、澄み切った青い空を眺めて、

 

ビューティフォー!

と感嘆の声を上げ、ごまかしておきました。

一時間で、8回ほど「ビューティフォー」を言うと、さすがに兄ちゃんは疲れたらしく、「それじゃ、晩飯があるから帰るよ。頑張ってね。」と去っていきました。

HPに載せるから写真を撮らせてくれと言ったのですが、通じず、帰られてしまいました。
慌てて、カメラを撮り出し、パシャッ。

しかし

 


撮れてねえ~っす・・

今日は、気のいい白人と会えて、幸せ。おかげで気分良く釣りが出来ます。

 


8時辺りのイブニングタイムには、大きなニジマスが背ビレを出してライズを繰り返しました。虫はメイフライ、カディスが飛びまくり、とっても釣れそうです。

しか~し!渋い。
何をやっても釣れません。魚も距離を心得ていて、届かない所でライズをしています。

結局、この日も鱒を手にすることなく、帰って来ました。

 

ただ、一歩ずつ前進しています。昨日はキャスティングさえできませんでしたが、今回は魚も見えたし、何よりもフライラインを水に浸けることができました!

 

10月24日


川への途中。
空はでかく、牧場や丘はどこまでも続く。

 

今日は、ムルパラ方面の某有名河川へ行って来ました。
しかし、すでに先行者が多く、入り込む余地が無かったので、諦めて昨晩の川へと向かいました。

その途中、ムルパラにある森林管理局のような所で、フォレスト・パーミットという森林を通る時の許可証をもらってきました。これがあれば、ある程度の森へ入って行けます。

まだ昼間です。
こんな時間に例の川へ行ってもライズは無さそうです。

とりあえず、途中にある湖へ向かいました。
ここも昼間は、あんまり釣れそうにありませんが、振っていれば、その内なにか釣れるでしょう。

 


ウエーディングし、湖から撮影。
天気が良く、穏やかな日です。
釣れる気配は全くありません。

しかし、最初の一匹を手にするために、竿を振り続けました。
すると、コツン・・
とても小さなアタリです。

軽くあわせると、何か小さな抵抗を感じたので、手繰り寄せました。小魚かな・・?

 


貝だよ・・

ありえねえ・・貝じゃないか・・
今まで釣りやってきて、初めて釣ったぞ・・

 

その後、もう一つ貝を追加すると、場所を替えることにしました。
湖沿いの道路を走っていきます。
爽やかな風が頬を撫で、最高に気分がいいです。

 

適当に走ると、見晴らしの良い所へ出たので、車を停めて湖へ歩いていきました。
すると、後ろから人の声がします。

「ボク、釣りかね?」
東洋人は若く見られると言いますが、ボクはないんじゃないの~?

返事を待つまでも無く、おじいちゃんは、続けました。

「ここよりも、向こうの岬に回るといいよ。大きなブラウンが釣れるはずじゃ。夜だけどね。まあ釣れたら、持ってきてくれ。スモークにするから」

御礼を言うと、満足そうに去っていきました。

 


見難いですが、車の横のブルーの服がおじいちゃん。
NZの人は、みな親切だなあ~。

 

そして、ついにイブニング。
昨日よりライズは少ないものの、釣れるチャンス!
ソラックスダン#14を結んで執拗なキャスト。

普通に流しても食わないので、少し誘うと・・
ガボッ!40cmほどのニジマスが覆いかぶさってきました。

しかし、アワセが早かったようで、バラシ・・
結局、この日も鱒を手にすることができませんでした・・

でも、一歩前進。

 

10月25日

今日は、朝から雨ですが、馬部さんと280キロ離れた海へカウアイという魚を釣りに行きました。

 


カモメ。

 


この日は、大荒れで、随分と苦戦しました。
餌となるホワイトベイト(日本で言う白魚のような魚)が接岸するために、カウアイも岸によるとのことです。

 


ホワイトベイト採りの地元民。この魚は大変おいしいようで、何人かが大きな網をもってすくっていました。

 


ああ、しかし、凄い風。
写真は馬部さん。

 

寒いし、釣れる気配もないから、帰ろうかということになりました。
この日も、魚には会えないようです。

途中、小腹が空いたので、ケンタッキーでいつもの2pcセットを購入。
おいしいっす。

 

雨が強くなってきました。
NZへ来てまだ魚が釣れない・・
もっと簡単に釣れるとばかり思っていたので、これはショックでした。

悲しい顔をした僕を見かねて、馬部さんが「よっしゃ、それならとりあえず一匹釣っておこうか!」と頼もしいことを言ってくれます。

お願いしま~す。

かなり遠回りになるのですが、ムルパラの某河川へ。

 


かなり重い流れの川です。
最初は、ニンフを投げる練習をし、そして、馬部さんに指示されたところへキャスト。

 

それにしても、重たいニンフは投げにくいです。
何度も投げてようやくポイントに入りました。

馬部さんが、「出るよ」と言った直後、インジケーターがすっと走りました!

 

ヒット!

ついに来ました!待望の一匹目です。
型は小さいようですが、とにかく走る!
物凄い力です。

今日はソルトだけのつもりだったので、#8ロッドなのですが、ガンガン絞り込まれます。
ようやく寄って来ました。

 


やりました!
35cmほどですが、最初の一匹です!!!

 

その後も、馬部さんの指示通りに投げると、ヒット!しかし、バラシ。

日本のニジマスとはわけが違います。
なんでバレるの?というくらい凄いファイト・・

この日は、結局、一匹だけでした。
でも、嬉すぃ~!!!!!!!

帰りは、ロトルアのパブで祝い酒だ!
と、ビールを注文。
「馬部さん、今日はおごらせてくだせえ!」

 


ビールがうまい!
勝利の味って奴でしょうか?

 

ついに釣り始めて4日目。ファーストフィッシュです。
でも、自分の力ではなく、馬部さんに釣らせてもらったようなものですが・・

この国では、日本のようにいきなり行って、いきなり釣れるというのではないようです。
ガイドという存在が、どれほどありがたいものか・・身をもって知った一日でした。

 

今回はこれでおしまい。