NZガイド修行日記 PR

第18話 グッバイ、プジョー

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帰国が近づいてきました。
時間なんて、あっという間です。

入国してすぐに出逢ったプジョー。こいつには随分と泣かされましたが、その分、かわいい相棒でした。

しかし、もうすぐ帰国・・。
車を買うのは簡単ですが、売るのは非常に時間が掛かります。

というわけで、売りに出すことにしました。プジョーと遂にお別れです。
今回は、そんなお話。

また、旅の後半、ロトルアに戻ってから写真が少ないです。カメラの盗難が多いというので、宿の主人であるニールに預かってもらっていたものですから。

デジカメの他に一眼レフでも多く写真を撮っていますので、写真集モドキみたいな感じで将来出そうかなあと目論んでいます(ちょっと宣伝。ただ何時になるか未定)

 

6月12日

おばちゃんを見送ると、いつも通りの朝がやってきました。
本当に驚くほどの日常に戻りました。

旅人の宿で感傷に浸ることは難しいようです。毎日のようにドラマが生まれて、消えていくのですから。

僕がいつもガイドで使っている川へ、トシさんと一緒に遊びに行きました。

この川のポイントは全て完璧に頭に叩き込んでいます。どこにどれくらいの大きさの魚がいるのか、どう投げて、どうやり取りをすれば逃げられないのか。

ガイドをするために、数ヶ月前から通い込みましたからね。

こうなると、魚が自分のかわいいペットのような気がしてきて、自分で釣るよりも「今日も元気に釣られちゃってよ!」となります。

自然とトシさんに釣ってもらいたいという気持ちになるのでした。

今日は死ぬほど風が強く、非常に厳しい一日でしたが、そこは釣り馬鹿トシさん。ばっちり釣ってくれたのでした。

トシさんは実に楽しそうに釣りをするので、自分が釣らなくても見ているだけで楽しい気分にさせてくれます。

大満足な一日でした。

 

6月13日

今日は13日の金曜日。

日本じゃないし、結構みんな話題にするのかなあと興味津々で旅人を眺めていましたが、全く話題になりませんでした。縁起の悪いことには触れないのかなあ・・。

いよいよ明日から愛車を売る計画を実行するので、その準備に取り掛かることにしました。

NZで人気があるのは、あくまでも実用車である日本製。

その証拠に「ここは日本か?」というくらいホンダ、トヨタ、ニッサン・・で溢れています。でも、自分の国の技術が認められているというのは、少し誇らしい気分ですね。

特に地方都市であるロトルアでは、その傾向が強く、「外車」が売られているのは殆ど目にしません。

僕が日本で乗っていたのと同じ年式のデミオが8000ドルくらいで取引されていました。

ちなみに僕が買ったプジョーは4200ドル。距離数も関係するのですが、やはり日本車に軍配が上がるのは間違いありません。

そんな条件下で売るので、苦戦は目に見えています。なので、帰国までに2ヶ月近い時間がある今から売ることにしたのです。

ロトルアでは町外れの公園、というか広場で車の個人売買ができます。

売りたい人間が車を並べておき、値札と電話番号を掲示しておきます。興味を持った人は、その掲示文を頼りに交渉をするというやり方です。

 

というわけで、値札を作るべく、文房具屋へスケッチブックとクレヨンを買いに行きました。

そして、陽があるうちに車のお掃除です。

宿に遊びに来るNZの達人、シンイチさんに「アーマーオイルで磨くと綺麗になるよ」とアドバイスをしてもらいました。専用のワックスを買うのもアホらしいし、安上がりで済むそれでいくかということに。

2ドルショップで買ったバケツとスポンジでピッカピカに洗い上げ、アーマーオイルでツヤを出しました。

こうすると、釣り仕様で汚かったのがウソのようです。
正しく、高級車!ってな感じです。革張りシートだし。
シンイチさん、ありがとう~!

宿の駐車場で作業していたのですが、経営者夫妻が娘のちびっ子ローナに自転車の乗り方を教えていました。

妻のキャサリンはビデオを持ち、旦那のニールがローナの自転車を支え、キャイキャイしてます。

お~日本と同じ光景だ。どこの国でも親は同じなのですね。

 


かわいいローナは、人見知りをしない性格なので、見た目が怪しい僕にも「タロ~」と声を掛けてきます。
ローナとニール。

 


ついでに一緒に記念撮影。

 

プジョー蘇り作戦後、夕飯の買出しにでも行くかねと思っていると、今夜同室となるドイツ人に夜釣りへ連れていって欲しいと頼まれました。

ライセンスは、すでに昼間買っていたようなのでOKしました。
でも、その前に晩飯にするべえ。

奴の名前はマイ。本当はマイ・・と言うのですが、よく聞き取れなかったので、マイと呼ぶことしました。

マイは図々しくも、日本人が炊いた米を食べたいと言うので、晩飯をご馳走することにしました。

キッチンの「自由に使っていいよコーナー」にチリソースがあったので、チリソース風味のピラフを作りました。我ながらかなり上出来でマイも旨いよ~と言ってました。

さあ、釣りです。
ロトルア湖に流れ込むストリームのリバーマウスへ。

タックルは#8、フライはルミナス素材をふんだんに使ったクレイグス・ナイトタイム。

この日は結構釣り人が少なく、ポイントへ自由に入れました。

マイは結構キャスティングが上手く、今までガイドした外人の中では最もキャリアがあるようでした。竿も自前だし。開始早々、大きなアタリがあったと大騒ぎ。

しかし、その後は芳しくありませんでした。もう帰ろうかという頃に連続ヒットし、40cmくらいのレインボーを2匹釣りました。めでたし、めでたし。

帰りにパブで一杯奢ってやると言われましたが、金曜の晩は込んでいるので遠慮しておきました。

リビングルームでテレビを見ていると、韓国人のパクと仲良くなりました。

日韓の親睦を深めようぜと、なぜか大変盛り上がり、酒盛りをしました。僕と同じくらいの語学レベルなので、お互いにヘタクソさを気にすることなく、楽しく会話したのでした。

 

6月14日

スクランブルエッグにチーズとミルクを入れると、ふんわりしておいしくなります。ここ最近、気に入っているメニューなのですが、飽きずにほぼ毎日食べてます。

食後、キッチンで知り合ったジュンコさんが車が無いのでワイオタプという観光地まで送って欲しいとのことだったので、まずは送っていき、帰りはそのまま車を公園に並べに行きました。

 


まだお客さんは少なく、参加者も同じように少なかったので、良い場所を取ることができました。

 

さあ、記念すべき最初の値段です。
高級車なだけに、なまじ安い値をつけると不審がられます。そこで、まずは5800ドルからスタート。

しかし、さすがに高すぎたようで、せっかく見に来てくれた人も鼻で笑って帰っていきました。

それにしても、今日は寒い!!!
なんでこんなに冷えるんかい。というほどです。

中国人学生と分かるグループが近くの車に群がっています。
真っ赤なスポーツカーで見るからに高そうです。

余談ですが、この国に来ている中国人は基本的にとんでもない金持ちです。そして、彼らは群れることが多く、ついでに言うと性能よりもカッコイイ車を選ぶ傾向にあります。

売り手と数分話した後に試乗していました。
そして、なんと早くも交渉成立。
ものの30分ほどでした。

おいおい、12000ドルもするんだぜ。
おまけで僕のプジョーも買ってくれよ~!
そんなチャラチャラしたのと違って、こっちは大人の色気ムンムンだぜ。

しかし、彼らは見向きもしてくれませんでした。
ふう・・。

結局、この日は寒い思いをしただけで宿に帰りました。しか~し、明日があります。
今日の経験を活かして、明日こそ!

 

今夜はパクとジュンコさんの3人で夕飯を食べました。

彼女は入国してまだ1週間ということでしたが、以前オーストラリアにワーホリで行ったことがあるらしく、全く不自由することなく旅しているようです。

 

6月15日

よし、今日こそ!
売りますぜ~。

今回は4800ドルからスタートすることにしました。
そして、携帯電話の番号を書いた紙を一緒に置いておき、買い手が後から僕にコンタクトを取れるようにしておきました。

努力の甲斐あってか、2人が興味を持ってくれました。メモをして色々と質問してくれたのです。よ~し、大きな前進じゃ。

でも、結局は売れずに宿へ。
う~ん、やっぱり売るのは難しいのう・・。

 

宿へ帰ると、リビングにイングランドの女性2人がソファに寝そべっていました。

風邪をひいているらしく、ぜえぜえ言ってるので、「何か飲み物もってこようか?」と尋ねると、オレンジジュースと即答。冷蔵庫に飲みかけですがあったので持って行きました。

それがきっかけで仲良くなり、色々と話ができました。ただ、体調が悪いということで殆ど寝てましたが。

パクが市内観光から帰ってきたので、夕方から早々とビールを飲むことにしました。

「おい、タロー。ハカを見たことあるか?」と聞かれましたので、

「うん、この宿の中で見たことがあるよ(笑)」

「え?マジ?この宿、そんなサービスがあるの?」

「違うよ、この前さマオリの子が泊まったんだけど、その子が見せてくれたんだ」

「お前ラッキーだなあ・・」

そう、ハカは頼みもしないのにアッシュがやってくれたのでした。あいつは今頃何をしてるんでしょうかねえ。

 

6月16日

今日は、将来使うことになるかもしれないネタを集めようということで、トシさんがいる釣具屋「オキーフ」へ写真を撮りに行きました。

宿を出るとき、同室のロン毛のジムが、今日は何するんだい?と聞いてきたのですが、

WORKと言うつもりが、発音を間違えてしまい、

 

 

Walk。

と、発音してしまったので、ジムはご丁寧にオススメの散歩道を教えてくれたのでした。
ジム、すまん。そして、心遣い感謝する。

 

オキーフにはトシさん、マイク、マルコムがいました。
カメラを向けると、ちょっと緊張していたようでした。
まあ、そんな感じで撮影も無事に終わり、僕は宿へ帰ったのでした。

暇だったので受付でビデオを借りると、リビングで鑑賞を楽しむことにしました。

どこからともなく昨日の風邪っぴきイングランド女性が沸いてきたので一緒に映画をボケ~っと観ました。

 


白いシャツがトレイシー。もう一人がリサ。
彼女らは凄いことにたった一晩で風邪を完治させたようです。

 

この写真を撮ってくれたのは北欧系の超絶美女!リサに「彼女らと一緒に写真を撮ってくれよ」とお願いというか、懇願したのですが、「浮気はダメよ!」とかわされました。

うーん残念。彼女らのパワーに押され、顔がひきつっている僕。

シャワーを早めに済ませ、リビングでくつろいでいると、ちびっ子ローナとキャサリンが入ってきました。

室内にあるチョコレートのガチャガチャにコインを入れて、チョコを出すと、ローナはその内の一つを僕にくれました。

ありがとう。と言うと、へへへ、と照れ笑いするローナ。かわいい子です。当然、宿では人気者でみんなから愛されていました。

今夜はひどく雨が降っていました。窓から雨水が侵入してこないようにキッチリと戸締りをして、眠りに落ちました。

 

6月17日

パクがロトルアを離れてタウポへ行くというので、早起きして見送ることにしました。

 


かなり面白い奴だったので、別れは少し寂しいです。
ロトルアに帰ってきたら、また飲もうぜと約束をし、彼をバス停まで送りました。
さらばじゃ!

 

気紛れな雨も上がり、小さな晴れ間を見つけました。
釣りでも行くかな~と車へ向かうと、駐車場にどこかで見た大男がいました。

なんとワイカレモアナのキャビンで会ったドイツ人のトムです。
お互いに目が合って一発で分かりました。

お~!
まさかここでも会うとは。
やっぱり世の中狭いです。

奴も釣り馬鹿で、おう、釣りにいこうぜ!とすぐに話がまとまり、10分後には出発。

彼の車は一度車上荒らしにあったようで、トランクが閉まらないし、運転席側の窓ガラスが割れていると言うので、僕の車でムルパラへ行くことになりました。

ムルパラはガイドが多く、こんな釣り馬鹿をガイドが使う川へ案内すると、多くのガイドにとんでもない迷惑を掛けてしまうので、当たり障りの無いパブリックな場所へ案内することにしました。

まあ釣れますし。

トムは釣り馬鹿ですが、経験は浅いようで力任せにキャストしたりと、凄いパワープレイ。

魚を見つけて、ほれ、あそこへ投げなさい。と言うと、凄く興奮してキャストは余計にひどくなり、水面を叩いて散らせてしまいました。

ようやく掛けても3Xのティペットをアワセ切ってしまうし。う~ん困りました。
結局、この日は3匹掛けましたが全て逃げられました。残念。

 

帰りは疲れたので、奴が運転してくれるとのこと。
それじゃ、頼むわと言うことで、任せて眠りました。

2時間ほど眠ってしまったようでした。
ハッと目を覚ますと、周りは森の中。

どうした?と尋ねると、とても申し訳無さそうに「迷った」と一言。
もう暗くなっていたので、諦めて車の中で寝ることにしました。
う~狭いよ~、トムの汗の臭いがきついよ~・・。

 

6月18日

夜明と共に僕らは適当に走り始めました。
ムルパラには巨大な植林があるのですが、うっかり迷ってしまうと、マジで出られません。

ガイド修行時代に手に入れた森の地図があったので、それを頼りに走り回りました。

幸いなことに少し大きめの道ならば名前が付いています。道が分かれば現在地を割り出せます。

何とか1時間ほどで現在地を把握でき、里へ出ることに成功しました。

トムは僕以上に方向音痴なようで、
「タロー、お前は凄い奴だ!」と嬉しそうに叫んでいました。

いい加減、腹も減ったし、喉も渇いていたので、町に戻る前にガソリンスタンド(スタンドがコンビニの代わりで、大抵の物は手に入ります)へ寄って朝食を買いました。

トムは巨体を維持するために大飯食いで、ミートパイだけで5個くらい食べていたような気がします。

そして、ようやくロトルアへ。
ダナが掃除をしていましたが、疲れたから昼寝することにしました。ごめんよ~ダナ。

夕方、トシさんとマックカフェでお茶をしました。
なんかビジネスを立ち上げようぜ!と盛り上がり、色々と語りました。

 


なんの脈絡もありませんが、使い込んだボロボロのウェーダー。裏はもっと凄まじく、殆どが補修箇所。

 

6月19日

今日は朝から妙に体がだるかったので、釣りには行かず、図書館へ行ってきました。

昼飯は、韓国人が経営するアジア食品店で「出前一丁」のトムヤンクン風味(確かトムヤンクンだったと思いますが・・)を見つけたので、それに卵を入れて食べました。

でも、やっぱりノーマルな味が恋しい・・。

この日は大したことも起こらず、平穏無事に過ぎました。

 

6月20日

朝、キッチンでアサミさんという女の子と話して仲良くなりました。彼女は学生で韓国人のカップルと3人でプチ旅行をしているとか。

「カップルと同伴なんて、非常識と思うでしょ?ところがね、私がいないとダメだから頼むから来てくれとお願いされてるの」と彼女は言います。

カップルは、非常に仲が悪く、というか女性が圧倒的に強いらしくて、アサミさんがいないと一方的に男が殴られるというケンカになるようなんです。

なので、2人から同行を頼まれているようでした。

コリアン男、ヨンギンが現れました。その後から凶悪そうな顔をした女性(彼女の名誉のために名は伏せますが)がヌッと顔を見せました。

ヨンギンは無口でおとなしい男です。
そういえば、彼はルームメイトでした。挨拶しても、心を開いてくれなかった内気な子。

早速、女性はインネンをつけてヨンギンをドツキ始めました。

周りの白人達は眉をひそめています。
そりゃ、そうですよね。だって異様な光景ですもん(笑)。

段々、エスカレートしてきたので、アサミさんと二人で止めました。
めんどくさいカップルです、ホント。

それにしても、こんな目に遭っても付き合うというのが僕には理解できません・・。
皆さんもそう思いません?

これから彼らはロトルアを少しぶらついてタウポへ向かうとか。

 


なんとヨンギンだけ別行動を命じられたようで、可哀そうに一人でトボトボと歩いていきました。市内を案内してやろうか?と持ちかけても、結構ですと拒絶されました。

う~ん、面倒臭い男だ・・。

 

ま、いいか。と僕はお金を下ろそうと銀行へ向かいました。
いつものように下ろそうとすると、できません。

え~なんで?
残金は482ドルとあるのに。

窓口で聞いてみると、「キャッシングしてるよ」とのこと。

 

え~ウッソ~!!!!

そんなんした覚えないぜ。
どうやら僕は知らない内にキー操作を誤ってしていたようでした。
ということは・・・

 

残金と思っていたお金は借金!!!!!

 

 

えらいこっちゃ・・。

そうです、無一文です。
それどころか、借金持ちです。

やっべ~どうしよう。
調子こいてがんがんビール飲みまくってたけど、それどころじゃないじゃん。

僕の財産といえば、車ぐらい。
さっさと売らねば。

借金なんて絶対にしないというのが信条なので、気持ちが悪く、速攻で返したいです。
よ~し、今日から本腰入れて車を売ったるで~。

宿に帰ると、まずは車を磨いておこうと、バケツに水を汲んできました。
ちょうど明日から週末。頑張るぞ~~~~~~。

こうして、僕は気合いを入れて車をピッカピカにしたのでした。

 

6月21日

今日は朝から良い天気。
根拠は無いのですが、今日は売れる気がする!と予感めいたものを感じました。

 


とにかく早いところ売りたいので、現実的な値段をつけることにしました。
スタートは3950ドル。

 

幸い、公園横のグランドでサッカーの試合があり、お客さんの入りは上々。
僕のプジョーにも数人が見にきました。

正直にサンルーフとヒーター、カセットデッキが壊れているということを告げ、これでも良ければ3650ドルでもいいよと、交渉しました。

驚いたことに、なんと今まで人気がなかったプジョーが、ここ最近、若者の間で流行し始めたようで、かなりの数の若者が見に来てくれました。

僕はかつて営業職であったので、販売することにさほど抵抗はありません。

英語が殆ど通じていないにも関わらず、何とか3人に試乗の約束をこぎつけました。
人間必死になれば何とかなるものなのですね(笑)。

とりあえず、この日は手応えを大いに感じられた実りある一日でした。
しかし、不安です。もし売れないとなると、財布の中にある僅かなお金で帰国まで食いつながなくてはなりません。

なんか売れるもんないかな?
フライ売ってみようかな?

思ったら、すぐに実行しないと気が済まない人間なので、タイイングセットをキッチンに持ち込み、巻いてました。こんな怪しいことをやっていれば、必ず何人かが興味を示して寄ってくるはずです。

3時間が経過しました。

 

 

来やしねえ・・。

やはり怪しすぎたようで(笑)、誰も近寄ってきませんでした。

う~ん、やはり営業をしなくてはいけないか。

しこたまフライを作って釣具屋に持ち込もうかなとも思ったのですが、いつも行っているオキーフには、トシさんというお抱えのプロタイヤーがいるし。もう一軒の店は店員が嫌いなので入りたくない・・。

仕方ないです、旅人に売るしかありません。

時期的にエッグが売れると思い、死ぬほど巻きました。いつも釣りに行かない?と声を掛けたら、結構な確率で反応があったのですが、遊びに行くのとフライを買うのは違うようです。

おまけに、この晩はオールブラックスの試合があったので、みんなテレビに釘付けです。
売れそうにないっす(笑)。

う~ん、どういう風なアプローチにしようか・・。
ガイドするから、フライを買わない?、もしくは、ガイドして現地でフライを売るとか・・、いや、これはヤクザなやり方なので(笑)、却下。

あれこれ悩むうちに夜は更けていきました。

 

6月22日

この日も僕は公園に車を並べました。
日曜日はみんな教会に行くからか、閑散としており、まるでダメでした。
やはり勝負は土曜日か・・。

今週中に売れなかったら、マジで生活ヤバイな・・。
郊外で車の中で寝泊りするか・・。鱒釣って食べて・・。

生き延びるために必死になっていた僕は、公園でフライを売り始めました。
お客さんは僕と同じ車を売りに来ている人。

トランクからおもむろにフライロッドを取り出し、芝生の上でキャスティング練習を始めました。

余りにも暇で、やることがなくて困っている韓国人と中国人が集まってきました。

「フライかい?僕もこの国に来てから、数回やったんだ」という方もいました。

よし、いけるかも。

「今ね、こんなフライで釣れてるんですよ・・・・・・あーだ、こーだ・・」

「それじゃ、2つ貰うよ」

マジで?
やってみるもんだ・・。

遂に手にした2ドル。これだけを売るのに1時間。

 

 

割に合わない・・(笑)。

これでは、効率が悪すぎます。
やっぱ、ガイドしてお金をもらうのが一番かなあ・・。

そんなことを考えながら、トボトボ宿へ帰りました。

夜、色々考え事をしていたら眠れなくなってしまい、リビングで一人寂しく映画を見ていると、オーストラリアから来たビバリーというオバちゃんが部屋に入ってきました。

お互い暇ということもあり、色々と話をしました。そこへ今度は、以前、ニールが長期休暇を取っている間に留守番をしていたローナがやってきて、結局3人で色々な話をしました。

0時を回った頃、ニールが戸締りの見回りに来たので、彼をも巻き込んでおしゃべりを楽しみました。

実に楽しい時間でした。

 

6月23日

朝から大雨。
こんな日は気が滅入ってしまいます。
おまけに明日のパンの心配をしなくてはならない身であるために、一層ブルー。

ちょっとオキーフにでも遊びに行くかな、ということで、傘も差さずに出かけました。

トシさんとダグとコーヒーを飲みながらダベっていると、いつもトシさんからしか掛かってこない携帯電話が鳴っています。

誰じゃい?

出ると、当然のように英語。
すっごい早口なので聞き取りにくく、ダグに代わってもらいました。

「タロー、車はまだ売れてないか?と聞かれてるんだけど」

来た~~~~~~~~!
「売れてない、売れてない、売りますぜ!」

そして、夕方に待ち合わせて、ついにテストドライブをすることにしました。
待ち合わせ場所はオキーフ。

電話を切ると、すぐに宿へ戻り、車の掃除をしました。
車内の天井に張ってある布張りが破けて垂れ下がっていたので、ニールからホッチキスを借りて、ガシャッ。

よし。

さあ、これでバッチリだ。

最後に水を掛けて、完了~。

 


雨も止んだし、良い予感~。

 

夕方、オキーフにやって来たのはマオリの若い女の子。
若者の間でプジョーが流行しているというのは間違いないようでした。

彼女は車に詳しくないということで、付き添いの太ったマオリのオバちゃんが試乗することになりました。

試乗の前に壊れている箇所を正直に申告しておきました。
まず信頼を得ないと良い取引は出来ないと考えたからです。

あまりの壊れっぷりに女の子の表情は曇りましたが、色気ムンムンのエンジン音と革張りシートに心を奪われてしまったようで、ご機嫌のドライブとなりました。

試乗は無事に終わり、女の子は決断しました。

 

 

買うわ。

パンパカパーン!
やりました~、ありがとう~。

あまりにもプジョーを褒めてくれたので、嬉しくなってしまい、値引きしてしまいました。

結局、3500ドル。
現金一括払いということになりました。

良かった、これで借金返せる・・。
しっかし、次回からATMの操作には気をつけよう・・。

 

宿に帰ると、キッチンは大勢の旅人でごった返していました。
陽気なチリ人の女性と、ビールで顔を真っ赤にしたドイツ人に、

「イェ~~~~イ!」と言われてビールを差し出されたので、同じように「イェ~~~イ」と返して飲み干しました。

僕のプジョーが売れたのを祝福してくれてるのか?と思うくらいタイミングが良かったので、少し不思議でしたが・・。でも、細かいことは気にしない。

そのまま盛り上がって酒盛りでした。バンザイ。

さて、良い気分で部屋に戻ると、16号室は満員でした。
やあ!とみんなに挨拶してベッドに転がり、目をつぶっていると、突然、スイスの女の子が悲鳴を上げました。

 

カメラが無い!!!!!

どうやら盗まれたようです。
悲しいことに安宿ではよくあること。

そんな大事な物を大部屋に持ち込んだ彼女が悪いことになるのですが、それにしても気の毒でした。

 

「ベトナムでも、タイでも大丈夫だったのに、なんで一番安全なNZで・・」と言って泣き崩れました。

凄く思い入れがあったカメラのようで、大きな悲しみに彼女は耐えられずに発狂しそうな勢いでした。

その瞬間、みんな一斉に自分のカバンをチェックします。

僕は、貴重品は全てニールに預けていたので大丈夫だったのですが、僕とイングランドの男性以外の全ての人がウォークマンやCDなどを盗まれたようです。

今まで、他所の宿でもありましたが、これだけ鮮やかにたくさんの物が盗られるというのは初めてでした。

カメラを盗られたスイスの女の子は、咽びながら「警察へ被害届けを出してくる」と言って外へ出ました。

盗られた他の人も一緒に夜の警察署へ出向いて行きました。
ちなみに警察署は宿の真ん前なので、すぐです。

部屋に取り残されたイングランド人と僕の2人は、先に寝ることにしました。
夜中に彼らが帰ってきましたが、僕ら2人がすでに寝ているのを見て、黙ってそれぞれのベッドへ潜り込みました。

喜びと悲しみが入り混じった忙しい一日でした。
う~疲れた。

 

6月24日

暗くじめ~っとした雰囲気で朝を迎え、僕以外の旅人はロトルアを離れました。
結局、誰が犯人か分からずじまいで・・。

この宿は防犯意識が高く、ドアはオートロックになっています。通路には監視カメラもあるし。

なので、必然的に犯人は部屋にいた誰かということになるのですが・・。

何も盗られなかった僕ら2人は、疑われそうで、ちょっと嫌な気分でした。
まったく、誰だよ、ホント。

英語で愚痴るほど語学力が無いのでオキーフへ行ってトシさんに事のあらましを告げました。

こんな時に何でも話せる友人がいると心強いものです。

しゃべってすっきりしたら、無性に体を動かしたくなりました。
ダグに店を手伝ってくれと言われたので、店内のレイアウト変更のお手伝い。

車も売れたし、今夜はごちそうだぜ!
と、今まで入ったことが無いレストランへ行きました。
この国は外食は非常に高くつくので、実に久し振りです。

あ~おいしかった。

 

6月25日

今日は遂に車を手放す日です。
銀行口座をチェックすると、確かに振り込まれています。

借金は自動引き落としになっていました。
よし、解決。

その場ですぐに買い手の女の子に電話しました。
「確かに受け取りました。銀行の前で待ってます」

 

10分後、彼女はやって来ました。
一緒に郵便局へ行って、オーナーチェンジの書類手続きを済ませると、遂にプジョーは僕の手から彼女の手に渡りました。

実に色々な思い出が詰まっていたので、とても寂しかったのですが、仕方がありません。
元気でな・・。

大事に乗ってくださいね~・・。

 


記念に写真を撮らせてくれと言うと、「日本人は写真が好きね」と笑って付き合ってくれました。

銀行前で。

手には大金はありますが、なんだか胸にぽっかりと穴が開いたような気分でした。

 

さよなら、僕の相棒。