NZガイド修行日記 PR

第12話 マタウラの日々

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シンさんと別れ、しばらく一人の旅が続きます。

4日後にクイーンズタウンで待ち合わせの約束があるので、急いで南下しなければなりません。距離にして約800キロもありますので、のんびりとはできないようです。

その約束とは、プロタイヤーの備前貢氏、FF誌でおなじみの東知憲氏、雑誌でも度々登場されています佐藤淑広氏、バンブーロッドビルダーの齋藤氏と、マタウラリバーでご一緒させていただくことになっているのです!

僕のようなチンピラフライロッダーにとって、これは夢のようなイベントなので、ウキウキ気分で待ち合わせのクイーンズタウンへと向かったのでした。

 

3月23日

シンさんと、キャンプ場近くのガソリンスタンドで別れ、一路ウェストポートを目指しました。

西海岸沿いを走り、峠を越えて内陸部のクイーンズタウンへ向かう予定でいます。途中、少しだけ観光(極貧なので極力お金がかからないように)をするつもりです。

まずは、野生のアザラシを見に西海岸の小さな町ウェストポートへ。

 


居ました、居ました。写真では見難いのですが、ゴロゴロと岩場に寝そべっています。赤ちゃんアザラシも居て、かわいかったです。

 

さて、他に見る所はあるかなあと探したのですが、こんなもののようです。

本日の目的地は、グレイマウスと言う町で、アザラシポイントから、100キロ近く離れています。町なので野宿ではなく、バックパッカーズホテル(以下、BP)への宿泊を考えており、予約をしていないために夕方までには到着したいところです。

怠け者のアザラシをバシバシ写真に収めると、プジョーに乗り込み、グレイマウスへ。
北島よりも人口が少ないせいか、あまり車が通っていません。

とにかく、ガンガンと走って、何とかグレイマウスへ到着。

この町では、「グローバルビレッジ」というBPを友人に勧められていたので、地図を片手に探しました。方向音痴の僕にしては珍しく早く見つかり、チェックイン。

僕が到着した後に、どか~んと旅行者が来たので、危ない所でした。

 


このBPの特徴は、アフリカ色が強いところです。
インテリアや内装は全てそれらしく統一され、部屋も綺麗でした。

とりあえず、食材と荷物をベッドに運び、町へ買い物へ。これまで野宿をした時、調理器具が少なくて苦労したので、まな板やフライパンを買いに出発。

 

宿代は、夏季ということで高くなっており、相部屋なのに、なんと一泊21ドルもしました(1400円くらい)。

夏の南島の宿泊料金が高いと言うのは本当でした。でも、まあ綺麗だからいいか・・。

部屋に戻ると、白人のお兄さんがおり、少しだけ話をしました。名前はイェンと言ってました。国籍不明・・。

よっしゃ、腹が減ったし、ラーメンでも食うか!・・て、またラーメン?

キッチンへ行き、ちゃちゃっと済ませました。夕ご飯時は混雑するので、早目もしくは遅く食べないと、大変なのです。

あ~飯食ったし、暇じゃ。何をしようかなと思っていると、目の前に日本人の女の子が現れました。

彼女はミホさん。
丸一ヶ月日本語を使っていなかったので、日本人に会いたかったようでした。

そんなに毎日天気が良いか?というほど焼けた肌に天の川並みの迫力できらめく耳のピアス群。ただもんじゃねーな。というのが第一印象でした。

彼女の怒涛のマシンガントークは留まることを知らず、部屋に逃げ込もうとした僕の退路を塞いで更に話を続けました。

ここ最近は、釣り中心の健康的な生活を送っていたので、夜の11時というと、深夜です。どうにも疲れ果てた僕は、眠い目をこすり・・

 

 

「ラーメンが伸びちゃうから」

などと訳の分らない言い訳をして逃げたのでした。(ふざけて言ったつもりだったのですが、彼女は僕が本当に寝ぼけて言ったと思ったようでした)

ごめんなさい、マジで眠かったので。この場を借りて謝っておきます。

 

3月24日

朝、ミホさんとキッチンで会いました。「昨日さ、ラーメン伸びちゃうからとか、わけわかんないこと言ってたよ~超ウケる~~~~~。」と、開口一発目に言われましたが、面倒臭いので黙殺。

別れを告げると、BPを後にしたのでした。さらばじゃ。

さあ、出発です。本日の目的地は、150キロほど離れたフランツジョセフと言う氷河が見える小さな町です。ここもまた宿は決めていません。今日は大した距離を走らずに済むので楽ちん。

時間にも余裕があったので途中の山でトレッキングをすることにしました。

小さいと言っても、山は山。舐めてはいけません。

雨具を持ち、トレッキングシューズを履いて・・と、きちんと山登りの格好で出発しました。

この山は、野生のキウィが生息しており、しかも山頂からはサザンアルプスが展望できるとのこと。結構、急な道でしたが、頑張って登りました。途中、他の登山客には会わず、何だか山を独り占めできた気分です。

さあ、頂上だ・・。そこには先客が1人いたのですが・・。

 

①裸足。
②右手には2.25リットル、コーラのペットボトルを水筒代わりにぶら下げている。
③左手には、ポテトチップスの小袋

 

お~~~~~い!

と、突っ込んでしまいそうになりました。
これでは、なんだか気合いを入れて登ってきた僕がアホのようです。
恐るべし、NZスタイル。

 


まあ、そんなことを忘れて、景色を楽しみましょう。
キウィは夜行性なので見ることはできませんでしたが、素晴らしい眺めでした。

 

下山してからの道中、またもやアザラシを見られる観光地がありましたが、もういいや・・。

そして、さらに進みます。
すると、今度は妙な所へ出ました。

 


道路と線路が合体しているのです。
日本ではない光景ですね。

とりあえず、さすらいショットということでカメラに収め、フランツジョセフへ。

到着すると、BPのガイドブックを片手に探し始め、これまた簡単に見つかりました。
一泊21ドルと高かったのですが、決定。

「グローイング・ワーム」というお洒落なBPです。

 


部屋の前には、どこかで見たバイクが停まっていました。
はて、どこかで見たような・・。

 

部屋に入って、思わず大きな声を上げてしまいました。
「LAZY COW」というBPで一緒だったイングランド人のカップルです。

向こうも覚えていたようで、お互いに「あ~!」と指差しあい、笑ったのでした。

アンドリュー(♂)とルイス(♀)は、バイクで旅をしているのです。ルイスは日本人に英語を教えていたこともあったようで、話が弾みました。

お互いの旅のことを話していると、夕方になり、他の旅人が入ってきました。ドイツ人の女の子が2人、イングランドの男の子が1人。

僕のヘタクソな英語にも付き合ってくれ、楽しいひと時を過ごせたのでした。

さあ、飯を食うべえということで、キッチンでパスタを作りました。
一人寂しく隅っこで食べていると、ドイツ人の女の子2人組(ジュリアとベラ・・だった気がする)が「良かったら一緒に食べない?」と誘ってくれ、これまた楽しいひと時を過ごせました。

「ねえ、ドイツ語でこんにちはって何て言うの?・・」
「ハロ。だよ、簡単でしょ?・・」

ジュリア(ナタリーポートマン激似!)が、フルーツポンチを僕の分まで作ってくれ、久々の果物に大満足。おいしかった~、ありがとうジュリア。

お返しにビールを一杯おごり、3人で夜中まで話し込んで楽しかったです。

 

3月25日

朝、キッチンでジュリアとベラに会い、昨日の御礼とサヨナラを言いました。

「チュース!(SEE YOU)」
僕が知っている数少ないドイツ語は、彼女達に伝わりました。

ジュリアは大きなジェスチャーで投げキスをしてくれたので、僕はもっと大きなジェスチャーで返しておきました。さらばじゃ!

 

本日の目的地は湖が綺麗なワナカと言う町です。距離にして270キロ。

昼食代を浮かすために作ったサンドイッチを頬張りながら、のんびり走ること4時間。途中、何度か休憩をしながら、車窓からの風景を楽しんでワナカに到着。

まずは宿を決めておこうと、友人から勧められていたBPへ行ったのですが、空きベッド無し。やはり、夏の南島は旅人で賑わってしまうため、予約をしないといけないようです。

でも、僕の旅スタイルは「さすらい」。予約をせずにブラリと、宿泊地を決める風任せの旅。

それから数件、当たりましたが、遂にBPは断念。それならば、キャンプ場です。僕はテントを持っているので、キャンプ場という選択肢もあるのです。

国が管理しているキャンプ場が目に留まったので、そこへ。

 


トイレがあるだけで、水道すらありません。しかし、その分安くて、なんと一泊5ドル(350円)。

受付は無人で、コインを入れて、自分で宿帳に記入というものでした。ちょうどなかったので、小銭を作りに食材を買いに行くがてら、近所のスーパーへ。

晩御飯を済ませ、後は寝るだけなのですが、これがまた暇です。キャンプの辛いところは、夜が早いということです。

しか~し、なんと、このキャンプ場はクルーサ川のほとりにあるのです。そりゃ、釣りをするでしょ。ということで、釣具をひっつかみ、川へと向かったのでした。

 


夏なので、日照時間が長く、イブニングライズまで相当時間がありそうです。

魚を探して歩こうかと思いましたが、近くにいる釣り人から聞いた話では、ライズを待った方が効率が良いとのことでした。

 

8時近くになって、ようやくライズが始まりました。魚は小さいようですが、しきりに跳ねています。ドライフライを流せば一発だなと思ったのですが、これが釣れない!!

明らかに魚が捕食しているものは、別のステージのようです。

以前、トンガリロ川のイブニングでドライよりもウエットフライに反応があったことを思い出して、#10のウェットを取り出しました。

それを流すと、一発。
ガツン、ぎゅい~~~~~ん!!!

 


うっそぴょ~ん。
写真の魚のようなチビッコしか釣れませんでした。

後日、聞いたのですが、このポイントでは大きな魚は釣れないとのことでした。

消化不良でしたが、幾ら頑張っても小さいのしか釣れなかったので諦めてふて寝しました。

 

3月26日

本日は、ついに佐藤さんと待ち合わせの日です。クイーンズタウンまでは僅か70キロ。途中、他の町に寄って少しだけ観光をしながら向かうことにしました。

道中、色々な面白い看板がありましたので、紹介します。

 


これは、いわずと知れたNZ名物キウィ。
この看板は、先日のフランツジョセフへ向かう途中に目撃したものです。

 


これは、カルガモのようなもの。
通常と違うのは・・。

よく見ると、ほら、子ガモも2羽います。とてもほのぼのとしていますよね。

 

というわけで、あっという間にクイーンズタウンに到着(2時頃)。
待ち合わせは夜の8時なので、時間はたっぷりあります。
とりあえず、町をぶらつきましょう!

 


さすが、「女王が住むのに相応しい町」と呼ばれるだけあって、小綺麗です。
田舎臭いロトルアとは違って、垢抜けているといいますか・・。

 


広場では、白人のカップルが空手だか拳法だか分らない格闘技の練習をしていました。

カセットデッキからは、「アチョ~・・」と、奇声&アジアっぽい音楽が発せられていました。そんなのどこで買ったんだ?自分で作ったのか?

・・・・・・・。謎です。

 


これも広場で見かけた光景。
キャッチボールをしていました。

彼らは素手でやっており、写真の彼は突き指をしたようで、ひどく痛がっていました。

 

それにしましても、待ち合わせまで随分と時間があります。
地球の歩き方というガイドブックを見ると、なんと水族館があるではないですか!

湖に部屋を沈めて作った水族館といったようなもので、階段を下りると目の前に魚が泳いでいるのでした。

 


これがまた、大きな魚なんです。
釣ったら、相当引くだろうな~と興奮してしまいました。1m近いニジマスもいました。

 

普通の人なら長くて10分しかいないという、この水族館に僕は約3時間もいました。ガラスに張り付いて、すげーすげーと言っている日本人に係りのお姉さんは笑っていました。

それにしましても、暇です。
そこで再び散歩の再開です。

 


日本人のカップルが挙式していました。
2人とも、幸せそうです。

女性は堂々としていましたが、男性は照れ臭いのか、こそこそしていました。そして、記念のVTRを撮る専門の人が付き、カメラマンはパシャパシャ。

末長くお幸せに!

 

それにしても、よく時間を潰せたもんだと思うほど、気付けば夕方になりました。

夜景を撮ろうと、三脚を出して一眼レフで撮りまくりました。そして、ようやく待ち合わせの時間。

クラクションの音に振り向くと、佐藤さんが車から手を振っていました。

車内には備前さんや東さんも乗っており、そのまま2台で夕ご飯を食べにレストランへ。
超有名人達との久し振りの再会に小心者の僕は、動揺してしまい、何を食べたのかを忘れちゃいました!

その晩、ワインを飲みながら、釣り談義に花を咲かせました。緊張しましたが、とても楽しいひと時でした。この晩は、そのまま佐藤さん宅へ泊めてもらいました。

一人旅ではないので、安心してぐっすり眠りました・・ZZZ。

 

3月27日

佐藤さん手製の朝食をいただいたのですが(佐藤さんはプロの調理士)、これがまたおいし~~~~~~~~~~い!!ありがとうございました。

出発予定時刻が近づくと、クイーンズタウン・フィッシング・クラブ(以下、QFC)のケイスケさん、アリサさんが到着。皆でマタウラリバーのある町ゴアへ向かいました。

まずは、マタウラリバーのすぐ近くに家をお持ちの「よろずやさん」宅へ。

 


これからしばらくお世話になります、齋藤さん(よろずやさん)のお宅です。

それにしても、マタウラリバーがすぐ裏手にあるというのが羨ましい!!
これなら毎日釣りができます。

 

よろずやさんは、とても優しくて気さくな方で、初対面の僕にも親切にマタウラでの釣り方を教えてくださいました。ありがとうございます。

そして、今度は備前さん、東さん、僕が10日間宿泊する予定の宿へ荷物を置きに向かいました。

クーパーさんという方が、家の離れをロッジとして釣り人に貸し出しており、それを3人で借りたわけです。

一泊40ドルで、これを三等分なので、安上がり!宿の手配やスケジューリング等の大変な作業を快く引き受けてくださった佐藤さん、ありがとうございます。

クーパーさんは不在だったので、とりあえず荷物を部屋に運び、早速釣りをしに行きました。

 


これが、マタウラリバーです。町や牧場の間を流れるブラウントラウトの川。
繊細なマッチザハッチの釣りができるために、世界中からフライロッダーが集まります。

 

この川は、NZでは珍しいことに大勢で入っても釣りができます。ポイントも魚も多いからです。

みんなでゾロゾロと川を渡り、対岸へ。すると、早速ライズ!50センチくらいのブラウンが捕食に夢中になっています。

ここしばらく不調続きだったので、物欲しそうな顔をしていると、東さんが「やってごらんよ」と言ってくれました。「え~悪いですよ~」と言いながら、ちゃっかり川原に下りて釣り始めました。

何か小さなものを食べているようだったので、ボックスの中に一つだけ転がっていたミッジを結ぶと、魚の動きを観察しました。

南島上陸後に散々鍛えられたストーキング術で忍び寄ると、そっとキャスト。そして、そのままドリフトしたのですが、微妙なドラッグが掛かったらしく、見破られてしまいました。

それ以後、とても神経質になってしまい、おしまい。
マタウラの魚はおりこうさんです。

運がいい事にすぐ上流でもライズが始まりました。
少しだけティペットを長くして気合いのキャスト。

うまくいきました。出るぞと思った瞬間に静かに浮上してパクリ。
久し振りの手応えに手が震えましたが、無事にランディング。

 


40センチくらいのメスでした。
あまりの幸先の良さに感動!南島に上陸してからというもの、散々だったのでこの1匹は嬉しかったです!

東さん、ポイントを譲ってくださってありがとうございました!

 

夜は齋藤さん宅で、みんなして食事。
久々の大勢なので、とても楽しかったです。

そして、クーパーさん宅へ行き、床につきました・・。と思いきや、今日の一日でフライが足りないことに気付き、急遽フライの大量作成です。

ベッド横の小さなテーブルでタイイング。
備前さんや東さんが目の前でフライを作っている!なんだか夢のよう・・。

こうして、マタウラでの初日は幕を閉じました。

 

7時半起床。
今日から、釣り合宿のようなものです。規則正しい生活が続きます。

テラスで庭を眺めながら目覚めのお茶を飲んでいると、クーパーさんの登場です。
しかし、その顔を見て思わず噴き出しそうになりました。

なんと、

 

 

眼鏡にビシィ~と亀裂が!

やべえ、笑いそうだ・・と慌てて違う所に視線を移すと、ガレージの中で彼の息子さんが、ホッピング(昔流行ったオモチャ、正式名称不明。)でビヨンビヨン跳ねてるんです。

しかも、ありえないようなトゲトゲ付きの帽子をかぶって。

うっかりまたまた噴き出しそうになってしまいました。恐るべし、クーパー家。隙が無いっす。

クーパーさんは、大変親切でユーモアがあり、僕らを温かく迎えてくれました。

まだ食材を買っていなかったので、まずは、朝食のパンを買いに行き、齋藤さん宅でみんなで食べました。やはり、ご飯は大勢の方が楽しいですね。

 

さあ釣りです。
齋藤さんを加えた一行は、マタウラ川へと向かうのでした。

この川では、通称マタウラレッドと呼ばれるカゲロウがいるのですが、こいつの羽化量がライズの鍵を握っていると言っても過言ではありません。


サイズにして#16~18と言ったところです。

そして、大切なのは魚がどのステージのものを捕食しているかを見極めることのようです。
これが久しくマッチザハッチの釣りをやっていない僕にとって難しいものでした。

その他にもユスリカの羽化もありますので、色々なパターンを持っていた方が良いでしょう。

この日は、スピナー、ダンのライズがあり(ライズフォームで見極めたり、ストマックポンプで調べます)、僕はパターン数がなかったので大苦戦を強いられました。

ステージが違うと、見向きもされないほどの難しさ。
誰だ、NZの釣りは簡単だよって吹きまくっているのは!

結構、難しいです。だから面白い~~!

僕を除く3名は、さすがにボコボコ釣りまくっていましたが。尾数は2桁いっているようでした。

 

夜は皆で、齋藤さん宅にてカレーパーティー。

この晩は、来客がありました。僕が、アウトドアワールド厚木店に勤めていた頃の常連様であった杉山さんです。思いもかけない再会に驚き、お互いの近況報告に酒がすすみました。

世の中狭いです。

クーパーさん宅へ帰ったのは10時近く、とても眠かったのですが、12時半までタイイングをしましたとさ。

 

3月29日

朝起きて・・。

 

 

風強え~!!!!!!!

えらいこっちゃ。これは釣りどころではありませんぞ。
それくらいのレベルです。

とりあえず、齋藤さんのお宅へ向かい、作戦を練ることにしました。

そこへ、釣り好きのピーターが遊びに来ました。
彼は大工さんで、半年みっちりと働いて、残りはみっちりと釣りをするという立派な中毒者。

朝ごはんを一緒に食べようということになって、彼の家へとお邪魔しました。
なんと、

 


朝からバーベキュー!

すげえ、朝からバーベキューかよ。と思いましたが、日本のそれとは少し違い、朝食のおかずを庭に置いてある鉄板で焼くというものでした。

彼の家には「トラウト・バム(釣りにハマった道楽者というニュアンス)コテージ」という看板が掲げてありました。

タイイングルームは、マタウラ川に面していて、川を眺めながらフライを巻くことができるんです。なんという贅沢でしょう!

食べ終わる頃になると、風も弱まってきたのでピーターを加えて皆でマタウラ川へ。
二手に分かれようということになり、僕とピーターは下流へ。

今年は異常なまでの渇水ということで、渡渉は楽なものの、ポイントが制限されてしまうために釣りのコンデションとはあまり良いとは言えないようです。

ピーターは毎日のように通っているために、あらゆるポイントを知っています。

「TARO,あのプールには必ず魚が入っていて、グルグル回ってくるから、近づいたら釣りなよ」

事実、3分と待たぬ内に大きなブラウントラウトが回ってきました。
ライズをしながら近づいてきます。

魚がよそ見をしている間にキャストし、待ちました。フライはクリップルダンの#16。
ヒット!

 


しかし、フッキング失敗。
「口が硬いからフッキングは難しいよ」と優しいピーターは慰めてくれました。

この日は、状況が厳しかったので、好釣果を残せずに終了。
家に戻ってからは、日課となったタイイング・・。
写真の彼はピーター。

 

3月30日

今朝も風が強い!
ジュリアンというピーターの友達を加えてみんなで朝食。
今日は、マタウラの支流へ行ってみようという事になりました。

 


僕の愛車は、砂埃で真っ白け。
一路、支流へ。

スーパー方向音痴の僕は迷いながらも何とか到着。
牧場の中を流れる泥っぽく、川原の無い川でした。でも、大物がいそうな雰囲気が濃厚です。

 


備前さんと東さん。
魚のライズを観察して作戦を練っているところ。

 

バックが取れず、しかも障害物だらけ・・。フライをやるには、あまりにも厳しい状況です。
未熟な僕にはどうしたらよいのか分りません。

しかし、2人は見逃しませんでした。岸際に必ずクルージングしてくる魚を。

言われて初めて気付いたのですが・・。さすがです。経験地の差が浮き彫りになった気がしました。

ギリギリまで近づいて、一撃で仕留める。
釣りと言うよりも狩りといった方が良いでしょう。

お二人に比べ、累積尾数が遥かに少ないため、この魚を譲ってもらいました。
ありがたや~。せっかくのご厚意を無駄にするわけにはいきません。
プレッシャーを感じながらも、必死にキャスト。

僕は草の陰に身を隠しているので、魚の動きが分りません。そこで、実況中継をしてもらうことになりました。

あと30cm・・というセリフの後に小さな音が聞こえました。それと同時に、

 

 

ヒット!!!!!!

東さんが、教えてくれました。
口の中がカラカラになっていたのをはっきりと覚えています。

足場が悪く、一人でのランディングは困難であったので、お二人に手伝ってもらいました。
そして、ついにキャッチ。

 


50cmほどの綺麗なブラウントラウトでした。

ありがとうございます~~!
釣った直後に冷静に考えてみると、僕はとんでもなく恵まれた釣り人でした。備前さんや東さんとご一緒させてもらうだけでなく、釣りを教えてもらい、さらにランディングまでやってもらう・・。

神様ありがとう。

 

この日は、もういいや。と思えた納得の一匹で、大満足でした。
さらに魚を探して歩き続けます。
牧場の中の湿地を歩いていた時です。

メエ~・・メエエエ~と弱々しい鳴き声が聞こえます。

その場所に近づくと正体が分かりました。アホな羊が沼にはまり脱出できずにもがいていたようでした。

自分の首が動く範囲の草を食べて生き永らえているという状態で、放っておいたら間違いなく死んでしまいます。

助けることにしました。

羊の目の前に行き、しゃがんで瞳を見つめました。
羊の瞳って四角くて気味が悪いっす。
まるで・・

 

 

地獄の使者だね。

とても怖い目をしていますが、助けてやろうと、掴める部位を探しました。

通常でしたら、太い首と、胴体を持って引きずりあげるのですが、どうも額に生えている僅かな毛が気になりました。

僕は好奇心が強い方なので、思わずその毛を掴みました。
すると、羊は呆れて困ったというか・・

 

 

そこじゃねえだろ!!(怒)

奴はかなり怒って、そう訴えているかのように見えました。

ちょっとだけ引っ張ると、いてえ、いてえ。という表情をします。結構人間臭い顔をするので面白かったです。

あんまりふざけていると、釣りをする時間が無くなってしまうので、お二人に手伝ってもらって引っ張りあげました。無事に救出された羊君は、メエ~と啼いて、走り去っていきました。もう、はまるんじゃねえぜ。

 

結局、その後は魚影を殆ど確認できず、また確認できても竿が振れなかったりという状態だったので、この日は諦めて帰ることにしました。

この日の夕方、マタウラの名ガイド、デイビットに夕飯の招待を受けていたので泥んこプジョーを走らせました。

彼の家は丘のてっぺんにあり、真っ赤に染まるマタウラの夕焼けを独り占めできる素晴らしい家でした。

 


なんとも羨ましい眺めです。
デイビットの家は、ゲストハウスも兼ねているので、この日は他のお客さんも一緒でした。

楽しい夕飯を済ませ、僕らは合宿場へ。
この日ももちろん、タイイング。

 

3月31日

この日は、待望の雨が降ってきました。
でも、雨振り過ぎ・・。
そこで、しばらくの間は齋藤さん宅で待機させてもらいました。

どうしようもなく本降りだったので、今日は休息ということで町をぶらつきましょうとなりそうだったのですが、あっけないほど天気は回復し、マタウラへ向かうことになりました。

ハッチとライズは凄かったです!
気持ちよく、バシッとドライフライに出てくれたので最高の日でした。

 


55センチのブラウン。フライはCDCダンの#18。
ティペット6X。
痺れまっせ~。

 

夕飯は、備前さん、東さんが特製ハンバーグを作ってくださり、齋藤さんがお気に入りのワインを振舞ってくださったりと、何とも恵まれた幸せな一日でした~。

 

4月1日

本日は、クイーンズタウンから佐藤さんと奥様の幸子さんがお越しになりました。

皆でワイワイやりながら、牧場の中を走り、釣り場へ到着。車は家畜のウンコで大変なことになっていましたが、もう慣れてしまったので気にもなりません。

 


佐藤さん。目の前の渋いライズをちゃっちゃと釣ってしまいました。
すげえ~!

 


備前さんも、パパッと・・。

 


言うまでもなく、東さんも!

 

幸子さんも、慣れた手つきで大きな鱒を釣っていました。しかし、僕が場所移動をした直後だったので、遠くて写真を撮れず・・。

午前中は、割りと渋かったのですが、午後になるとライズが盛んになり、皆の竿が絞り込まれていました。なんて平和な時間でしょう・・。

 


夜は、皆でNZのファーストフードの顔であるフィッシュ&チップスを食べました。

 

4月2日

今日は、先日一緒に釣りをしたケイスケさんとアリサさんが来る日です。
彼らは午後から合流するとのこと。

朝、齋藤さんのお宅へ行くと、一人の若者がいました。

彼の名は太郎さん!
僕と同じ名前です。

彼はとてもナイスガイ。以前、ワーホリでNZを訪れて、それ以来フライにはまってしまったようです。

新しい釣り仲間ができるって、とても幸せなことですねえ。

 


フライフィッシングにはまった太郎さん。

 

ケイスケさん、アリサさんが到着したので、みんな揃って出発することになりました。

その道中のことでした。
なんと、事故に遭いそうになってしまったのです。

齋藤さんの車が先頭で、僕、ケイスケさんの順番だったのですが、後ろからイケイケ風の若い兄ちゃんらが乗った車がケイスケさんを抜き去り、僕の後ろについていたのです。

こんな田舎でまさか煽られるなんて思っていなかったし、車内でのお話に夢中だったので、僕は後ろの車が入れ替わっていたことなど気付きませんでした。

先頭の齋藤さんが、右ウィンカーを出したので、僕も出して右に寄せました。後ろの車も同じようにウィンカーを出したのをチラッとミラーで確認したのですが・・・・。

イケイケ兄ちゃんらの車は追い抜こうとして、ウィンカーを出したのです。なので、当然ぶつかりそうになります。ヤバイ!と気付いた時には、遅く、ああ~終わった・・と思ったのですが、奴らの急ブレーキで事なきを得ました。

車から引きずり出されて、ボコボコにされるかな?と一瞬、焦りましたが、彼らは「行けよ」という感じで手を振って促します。はあ・・・・・・・良かったあ~、平和な国NZで。

ナンマンダブ、ナンマンダブ。

 

釣り場に到着してから、みんなで「危なかったねえ」などと話したのですが・・。でも、ほんと無事で何よりでした。

さあ、そんなことは忘れて釣りへ行きましょう!

ケイスケさん、アリサさん、太郎さん、僕の4人は下流へ。齋藤さん、備前さん、東さんは上流へ向かいました。

この日は、ぽかぽかと穏やかな日で今のところライズはありません。
みんなでワイワイ言いながら、魚を探して歩きました。ケイスケさんは絶好調で、立て続けに数匹をキャッチ。アリサさんもキャッチ。

 


この日は、皆ふざけて、釣った人をあらゆる角度で写真を撮りまくるのでした。
写真はケイスケさん。

 


アリサさん。
フラットな釣り辛い所に定位していたので、皆釣れないと思って手を出さなかったのですが、釣ってしまいました。

 

前半は、写真ばかり撮って竿を振らなかったのですが、後半からは真剣にやり始めました。
イブニングライズで何とか釣って面目を保ちました。ふう・・。

終了間際に「よろずや企画」のツアーでマタウラにやってきた早坂君が合流。手早く釣っていたのには驚き。

 


彼はまだ若いのに、かなりの腕です。
国家試験を通り、現在はお医者様。

 

夕飯は、みんな揃っていただきます!
ケイスケさん&アリサさん特製のビビンバはとても美味しかったです。


ああ~久し振りのビビンバ。
機内食以来だ・・。
すっごく美味しかったです。

今夜から、早坂君は齋藤さん宅泊。新しい仲間ができてよかったです。

 

4月3日

齋藤さん宅にて、みんなで朝食。
その後、マタウラ川へ。

11時頃から本格的なライズが始まり、車から降りるや我先にと僕は飛び出しました。
しか~し、とんでもない事態に超ブルー。

 

 

ラインカッター失くした。

はあ、またかよ。
本当にNZ製の釣具はボロだ。ピンオンリールの紐が切れたのは何度目だ?仕方が無いので、この日はナイフで糸を切ってました。とほほ・・。

でも、負けません。
せっかく魚がやる気を出してくれているのですから。

しかし、今日は妙に魚が神経質で、フライに出ても口を閉じないのです。
さすが、利巧なブラウン。そのため、今日の釣果はあまり芳しいものではありませんでした。

 


やっとの思いで釣った魚。
喜びもひとしおです。

 

終了間際に釣った魚は、ニジマス並みに引き、バッキングラインまで出しました。変だなあ?と思って聞いてみると、シーラン系とのこと。


全体的に銀色がかっており、×印のようになった黒点が多いのがシーラン系の特徴とのことでした。
同じブラウンなのに、全然力が違うのでした。

 

4月4日

今日は朝から暴風が吹き荒れ、とても釣りどころではありませんでした。

仕方が無いので、隣町までアイスクリームを食べに行きました。なんでも50セントで売っているらしいのです。

田舎のアイス屋に突如として大勢の日本人が来たので、店員、お客さん共に驚いています。小さい子供は怯えていましたが、備前さんがあやすと、笑い始めました。一体どんな魔法を使ったのでしょう?

とりあえず、家に戻ったのですが、やはり釣りをしないと調子が出ません。
風が強いけれど、とにかく行ってみようということになり、マタウラ川へ。

さすがに釣り人はおらず、魚はいつもの警戒心を持たずにしきりにライズを繰り返していました。

 


齋藤さんは、たやすく釣ってました。

 


風に手こずりながらも、何とか僕もキャッチ。

 

そして、夜。
デイビットから夕飯のお誘いを受けていたので、遊びに行きました。

ちょうどお客さんが泊まっているようで、彼らと共に大勢で食事。奥さんのベブのおいしい特製料理を食べながら遅くまで話が続きました。

 

4月5日

備前さん、東さんとご一緒させていただけるのは、本日が最後。
お二人から教えてもらったことを復習するつもりで、丸一日、真剣に釣ろうっと!

天気は曇り、水量もばっちり、かなり冷え込んできたので、マタウラレッドがスーパーハッチ(大量羽化)しそうな予感。予想通り、魚の活性は高く、最後の釣りを最高にすることができました。

夜、齋藤さん宅でくつろいでいると、デイビットが遊びに来て、みんなで最後の夜を楽しむのでした。

 


マタウラで知り合った、素敵な釣り仲間。
本当にありがとう!

 

4月6日

ついにお別れの日。
デイビットと、彼の友人であるビルが見送りに来てくれました。
みんなナイスガイです。

フライフィッシングを通してできた友情は、国境を越えて世界の片隅で育まれています。やっぱり釣りをやっていて良かったと思えるのでした。

10日間、あっという間でした。
これまでにお二人から教わったことを(釣りだけではなく、色々と)忘れずに日々、磨いていかねばと不肖・中村はそう思うのでした。

本当は、僕もマタウラとお別れするつもりだったのですが、予定変更。
皆の話では、これからが良くなるというのです。
更に冷え込んで、曇ってくると・・いいぞ~と。

というわけで、今日から齋藤さん宅へお邪魔することになりました。
齋藤さん、ありがとうございます!

この日は、齋藤さん、早坂君の3人でマタウラへ。太郎さんは、支流へ行きました。

 

4月8日

今日は、クイーンズタウンから佐藤さんご夫婦がお越しになります。

天気が良かったので、ハッチは無いかも?と嘆いていたのですが、虫は元気に飛んでくれ、ライズもそれなりにあったので、皆、満足のいく釣りができました。

 


釣りを終えての帰り道、川原を牛が、モ~モ~と啼きながら歩いていました。

 

今日は早めに釣りを終えて、カレーを作って食べ、デジカメで撮った動画の試写会を開きました。

画面に映るマタウラ川は、外国の川そのもの(当たり前ですが)であり、今更ながらに「ああ~有名なマタウラ川で釣りをしたんだなあ、本当に幸せ者だなあ」と思うのでした。

太郎さんは、帰国日が迫ってきたので、マタウラとは今夜でお別れし、クイーンズタウンへと向かうのでした。

よって、齋藤さんと、早坂君と僕が残されたのでした。

 

4月9日

本日は、僕にとってマタウラ最後の釣行日。
最後だし、気合いを入れて釣りをしよう!と思っていたのですが、

 

 


つい、昼寝。

 

この日は、1時から4時の間、ライズの嵐!

物凄い数のカゲロウの羽化に狂った魚が水面で夢中で捕食し、見渡す限りライズで埋め尽くされるマタウラ川の光景をマッドマタウラと呼ぶそうなのですが、正しくそれ。

今までの激渋が何だったのだろう?と思えるほどでした。

結局、最後の釣りを存分に堪能することができました。

三人で最後に食べた晩御飯は、ステーキにスープ。
明日から、また一人ぼっちの旅が始まるのです・・。

マタウラを去るのは寂しいのですが、仕方がありません。
僕は、さすらいの釣り人ですから。なんちゃって!

 

4月10日

ゴミを捨てに行き、朝食を済ますと、3人でゴアの町へと繰り出しました。この日は、早坂君も釣りを休んでくれ、一緒に行くことになったのです。

 


これが有名なゴアのオブジェ。
ブラウントラウトの世界首都と書かれています。実際、巨大なブラウンがゴロゴロいますので、頷けます。

 

丸々2週間も滞在してしまいました。それだけの魅力がこの町にはあるのです。

地球の片隅にある小さな町、そこに棲む大きなブラウン。
マタウラ川を通じて知り逢えた多くの仲間達に感謝して、僕はこの町を去ることにしました。

南島は秋。
冷たい南風を頬に受けて、灰色にくすんだ空を眺めました。

「今日もライズしてるんだろうなあ・・」

齋藤さん、早坂君に別れを告げ、泥んこの愛車プジョーに乗り込みました。
ありがとうございました!そして、また逢う日まで・・

第12話は、これでおしまい。
次回で、南島編は終了です。さてさて、一体何が待ち受けているのでしょう・・