NZガイド修行日記

最終話 アスタラビスタ

ダグは灰色の瞳に涙を浮かべて言いました。

「アスタラビスタ」。

 

ぐっと込み上げてくる熱い想いを、何かを、僕らふたりは必死で笑って堪えました。

ダグは、もう限界だったようで顔を背けると、
「トシ、タロー。元気でやるんだぞ」
それだけを言って鼻をすすったのでした。

 

アスタラビスタは魔法の言葉。

いつも陽気なダグを涙させる不思議な言葉。

「さよなら」を意味するようなのですが、正確には分かりません。
結局、ダグは教えてくれませんでしたから。

 

さて。
この日記も今回が最終回となります。

2002年の10月から書き始め、2005年1月に終わりを迎えようとしています。

思えば色々ありました。

そして、実に多くのお便りをいただきました。
本当にありがとうございました。

また、この日記を読んで会社を辞めた人が3人ほどいらっしゃいます。
ちょっと責任を感じています(笑)。

今まで、本当にありがとうございました。

さあ、旅の日記を続けます。

 

7月25日 晩

韓国人の友達に刺身をご馳走し、気分良く部屋に戻りました。

向かいのベッドにインドから来たおじいさんが座っていました。

「ワシの名前はララじゃよ。お前さんは?」
「タローです」

「そうか、タローか。いい名前だ。響きが良いからいい名前なんだろうな。それとそこの若いの」

リュージ君を指して言いました。

「お前さんの名前は?」
「リュージです。」

「そうか、いい響きだ。リュージの方が響きが良いな」

 

 

なんだそりゃ?

なんだか、知らない内にララのペースにはまってしまい、ずーっと訳の分からない話に付き合わされてしまいました。

今夜はリュージ君のお別れ会をやる予定なのですが。

2時間後、ようやくララを寝かしつけると、僕らは人気の無いキッチンへ向かいました。

 


あり酒全部もってこ~い!状態。

驚異的な消費量で、白ワインを2リットルほど、ビールをいっぱい・・を3人で消費。

でもリュージ君は、あまり飲まなかったので実質上は僕とモッチャン2人で空けました。
写真は、モッチャンと僕。

 

いや~飲んだ、飲んだ。
釣りの疲れが残っていたせいもあって、僕は急速にダウン。

急性アルコール中毒のようなヤバイ感じになってきたので、隣のリビングへ避難。

ソファに転がると、猛烈な吐き気と戦いました。

 

こんなの学生の時以来です。
ついつい飲みすぎてしまいましたわ。

心配して様子を見に来てくれた2人。
モッチャンは少し顔が赤いものの、大丈夫なようでした。

あんた怪物か?

 

「タローくん、大丈夫か?」

「やべえわ、こりゃ。ワリぃけどさ、綺麗なビニール袋持ってきて。吐きそう。マジで。おえ~って吐きそう。」

なぜ、綺麗なビニールなのか分かりませんが、僕は何とかそれだけを頼みました。

律儀なリュージ君は、僕のワガママな願いを叶えるために必死でキッチンを漁り、それなりに綺麗なビニール袋を持ってきてくれました。

うわ~僕の酔い方って最低・・。
(でも吐かずに済みました)

 

あ~気持ち悪い・・。
2人に抱えられて、僕は16号室に帰りました。

ベッドに転がると、知らない内に深い眠りに落ちていきました。

 

7月26日

この世の終わりがやってきたような最悪の目覚めでした。

二日酔い。
気持ち悪いよ・・。

「酒臭いよ~」
と騒ぐララの叫びが頭に響き、「お願い、ララ。叫ばないで」
と、身振りで二日酔いをアピール。

ララは、グヘヘという感じで笑うと、ベッドに潜り込みました。

それからキッチンへ行き、馬のように水を飲むと、少し頭がスッキリしてきました。

もう、こんな馬鹿な飲み方はやめとこ。

 

「タローさん。僕、そろそろ行きます。ネイピアへ。」
「おお、そうか。達者でな。」

「俺、タローさんに会えて楽しかったです。」
「こちらこそ楽しかったよ。次に会うのは日本だな。綺麗なビニール袋を持って飲みにいくか(笑)」

「フフフ・・。それじゃ、行きます」
「おう!」

僕らは固く握手をしました。
モッチャンはリュージ君の肩を強く叩くと、
「良い旅をね!」と言いました。

 

リュージ君の凄まじくオンボロな車のエンジンが掛かりました。

車窓から顔を出して、「それじゃ・・」と小さくお辞儀をし、車は静かに滑り出しました。

ブレーキランプがわずかの間、点灯し、すぐに見えなくなってしまいました。

 

さよなら、リュージくん。
また会おうな!

 

モッチャンは学校へ行きました。
僕は買出しをするためにカウントダウン(スーパー)があるモール街へ行きました。

 


ロトルア・セントラル・バックパッカーズホテル。
長いことお世話になりました。

木が生えていますが、ちょうど葉が当たっている2階の窓が16号室です。

 


表通りにあるF&Cショップ。
ここには随分とお世話になりました。

店内の様子。

 


店を出たすぐの所です。

このベンチでは、大抵の場合、子供らがだらしなくジュースを飲んでいるのですが、この日は寒いのか、1人もおらず。

 


ちょっと歩いて西を向くと、通い倒した釣具屋さんオキーフズ・フィッシングスペシャリストが見えます。

 


脇見をやめて、カウントダウンを目指して歩くと、左のような光景が目に入ります。

ロトルアのメインストリートです。

 


トシさんと頻繁に行ったカフェです。

僕は決まってホットチョコレート。
なぜならばオマケでついてくるマシュマロが美味しかったからです。

 


カフェの駐車場から東を見ると、もう1つのスーパー「パックンセーブ」が目に入ります。

 


これがパックンセーブ。

他のスーパーと違い、ビニール袋をくれないので、買ったものを店に置いてある空きダンボール箱に入れて持って帰ります。

 


ようやく着きました。
と言っても、宿から歩いて10分もかかりません。

小さな町なんです。

宿を出る前に間違いなく、ワイン3リットルは空になるので新しいのを買っておきます。
それとビールも。

牛乳、ブロッコリー、ステーキ、ベビーキャロット、パスタ・・。

買い物袋を提げて、宿へ帰ります。

 


玄関です。
左にある白いドアは開きません。
馴れない旅人はよく間違えます。

 


玄関からすぐの所にリーディングルームがあります。

ここでは、実に多くの旅人と語りました。

ビジターブックがあり、僕はしっかりと書き残してあります。
行ったら誰か見てね。

 


少し廊下を歩くと、リビングルームです。

夕方になると、みんなカーテンを閉めて、TVに釘付けになります。

なので、いつも夕方の買い物から帰ってくる頃は、ドアを開けるために注目されます。

 

ようやくキッチンに着きました。
買ってきた物を冷蔵庫に入れます。

基本は、ビニール袋などに入れて、マジックで名前を書きます。

 

ちなみに下にある冷凍庫には、時間があるときに炊きだめしておいた米や、死ぬほど腹が減った時用の巨大手作りハンバーグが凍らせてあります。

過去に2度ほど何者かに食べられました(笑)。

 

昼ごはんを作って、一息つきました。
誰もいないので、つまらないです。

結局、また散歩へ行くことにしました。

 


よく行った酒場。

当てもなくフラフラ。
町の中をグルグル歩きました。
歩き疲れたので再び宿へ。

 

昼寝。

 


最後に僕が寝たベッド。

かつてアッシュがゲロを吐いたベッド(笑)。
多分、あの染みは取れないでしょう(笑)。

BPでは大抵の場合、シュラフを持ち込みます。
これを知らないで予約すると、寒い思いをして寝なくてはなりません。

でもまあ、毛布を貸してくれたり、備え付けである宿もありますが。

 

はあ。
暇じゃ。

その時、トシさんから電話がありました。

「今夜さ、ファカタネ(海辺の町)へ釣りに行こうぜ」
すっかり海の魅力にとりつかれたトシさんは声を弾ませて言いました。

「もちろん!」
速攻で準備を済ませました。

 

日が暮れる頃、海へ着きました。

港には予想以上に多くの釣り人で賑わっており、結構それなりに釣れていました。

フライは僕らだけで、ちょっと目立ちました。

 

結局、トシさんがヒトデを釣っただけで、お魚はゼロ。
港にあるF&C店でヤケ食いし、宿へ戻りました。

 

モッチャンと晩飯を食べていると、ララが話かけてきました。

なんの脈絡もなく、いきなり家族の写真を取り出すと、しゃべり始めました。

こうなると当分は解放されません(笑)。

 

どうやら若い奥さんをもらったのが自慢らしく、それを言いたいがための会話のようでした(笑)。

ララは本当に幸せそうでした。

 

7月27日

モッチャンの学校が早い時間に終わり、この日は彼の髪を切るのを手伝うことになりました。

彼の髪型はとってもユニークであり、ラーメンマンみたいな感じです。

真ん中だけを長くする辮髪タイプで、バリカンで周囲を豪快に刈ります。

 

NZへ来て、まさか人の散髪を手伝うとは思いませんでした。

細かな髪の毛がつくので、真冬の最中、2人とも上半身裸で散髪しました。

寒いよ~を連発していると、洗濯に来たキャサリンが僕らを見て大笑いしていました。

そりゃ笑えるよなあ・・。

 

散髪を終えた後、トシさんから電話があり、オキーフズへ来いとのこと。

何でもマルコムが用事があってしばらく離れるので、彼とはこれが多分、最後のお別れになるだろうということでした。

 


右の巨人がマルコム。
とても優しい、僕と同い年のナイスガイ。

左はオーナーのマイク。

 

「タロー元気でな!」
とてつもなく大きな手で握手をされました。
力強く、温かいマルコムの手。

本当に僕はロトルアを離れるんだなあと実感しました。
さよなら、マルコム。

 

しばらくダベった後、インフォメーションセンターへバスの予約へ行きました。

英語が堪能なトシさんに任せ、僕はその間、キョロキョロとあちこちを見回してました。

予約も無事に終わり、次にトシさんが旅行用のカバンを買うというので一緒についていきました。

手頃なのが見つかり、この日はこれでお別れ。
彼はホームステイ先であるマイクの家へ。
僕は、宿へ。

途中、仲良くなったお土産屋さんのシェリーおばあちゃんに挨拶へ行きました。

とても気の優しい人で、以前、日本に長期滞在していた過去を持っています。

さあ、荷物の整理です。

 


長いことお世話になったサンダルともお別れです。
これを履いて、あらゆる所へ行きました。

 

山のような荷物を片付けると、ふ~っと一息。
キッチンへ行ってビールを飲みました。(飲んでばっかり)

この晩は、モッチャンがムール貝のパスタを作ってくれました。

さすが元ペンションでコックをやっていただけあって、美味しかったです。

 

寝る前にララが執拗に奥さんの写真を見せびらかしてきましたので、対抗して釣った魚の写真を見せびらかしてやりました。

 

7月28日

昨晩、16号室に仲間入りしたドイツ人2人は超イケメン。

彼ら自身、それを十分自覚しているようで、朝、起きるや否や大鏡を前にパンツいっちょの裸でポーズをとっていました(笑)。

モッチャンと2人で必死で笑いを堪えてました。

 

朝食を済ますと、トシさんに連れられて郊外にあるマイクの家へ行きました。

パソコンなどの荷物を預かってもらっていますので、それらの整理もしなくてはいけないのです。

とりあえず、時間があまり無いということなので、全ての荷物を一度、宿へ運んでのんびりと片付けることにしました。

 

必死で整理をしていると、どこから湧いてきたのか、ララが執拗に話しかけてきます。

「ゴメン、今ちょっと忙しいんだ」
と、言ってはいるのですが、一向に気にするまでもなく、延々と奥さん自慢をしていました。

ほんと、このオッサンはなんなんだ?

 

片付けたのですが、余りの多さに愕然としました。

相当の量を処分しましたが、どう見ても来る時と同じくらいあります。
入国時の悪夢を思い出しました・・。

いやだ、あれは絶対に繰り返したくない!

しかし、どんなに削っても焼け石に水。
しょーがない。送るか。

そこで郵便局までえっちらおっちら運ぶと、重すぎて送れないとのこと・・。

マジで困ったな。

トシさんに相談すると、オークランドまで頑張って持って行ってワーホリセンターに頼もうということになりました。

まあ、何とかなるでしょ。

 

荷物の次はリコンファーム。

入国後一ヶ月目に冷や汗体験をしたので、今回は忘れずにやりましたよ。
英語で!

 

続いては口座の解約です。
いよいよ帰国が近づいてきました・・。

なんだか急にどんちゃん騒ぎをしたくなり、モッチャンと2人で、

「今夜は最高の贅沢をする会」を開催することにしました。

 

ステーキ、スープ、キノコとチーズトマトソースのオーブン焼き・・を作って、
死ぬほど食ってやりました。

もう動けんわい!っちゅうくらい。

 

最後にNZの食材を存分に味わおうということで、無理して平らげました。

ついでに懲りずにも白ワインを浴びるほど飲みました。
今回は二日酔いにならない程度に。

 

モッチャンとは、この晩、多くのことを語りました。

明日は学校というのにもかかわらず、彼は深夜まで肝臓耐久レースを棄権することなく付き合ってくれました。

本当に良い友達ができて僕は幸せだな~と感じた夜でした。

 

7月29日

そういえば、宿のすぐそばにあるロトルア博物館へ行ったことがありません。

図書館のカードを持っていれば、無料で入れるという話も聞いていたので、財布の中にカードの存在を確認すると出発しました。

これが結構、面白くてビックリしました。

特に映画。

内容に応じて、シートが揺れたりするんです。
これには驚きました。

 

宿に帰って、ニールにその話をしていると、

「タロー、今、暇ならさ、俺んちに来いよ。キャサリンもローナも待ってるからさ」

初めて彼らの住まいに招待されました。

宿は、建物を真っ二つに分けて半分が宿、残りをニールたちの家というふうにしているようです。

 


カメラをセルフタイマーにして記念撮影。
かわいいローナは首をかしげてポーズ。

 

この後、ニールが合気道のビデオを見せてくれました。
彼はなかなかの腕前のようで、色々な技を説明してくれました。

しかし、ここでも己の英語力の無さを痛感。

もっと話せれば、色々なことを語れたのに。
この宿やニールたちにどれほど感謝しているかを伝えられたのに。

 

この晩は、片づけを終えてマイクの家を引き払ったトシさんが16号室にやってきます。

ロトルア最後の夜は大宴会だぜ!と僕らは大はしゃぎでした。

 

本日が最後の自炊。
ああ、旅が終わるのか・・としみじみ・・。

僕が買った鍋やフライパンは宿に寄付しておこう。

 

台所が混んでいたので、食事の時間を少し後にしました。
先にシャワーを済ませておくとします。

風呂を済ませると、なんだか自炊をするのが面倒になってきました。
というわけで、最後の晩餐はシンプルにスープパスタ。

でも、飲み会は豪勢でした。

トシさんはかなり酒が強いので、この3人での飲み会がおそらく今までで最も多くの酒を消費したと思います。

トシさんは、ひとりでワインをボトルで2本、ビール数本を空けると、更にエンジンが掛かり、僕らは驚きました。

強すぎるよ、トシさん(笑)。

 

凄くハイペースで呑んでしまったので、早々に出来上がってしまい、0時半にお開きとなりました。

いかん、また呑みすぎたよ・・。

こうしてロトルアでの最後の夜はお酒の匂いプンプンで幕を閉じました。

シュラフに潜り込むと、
一気に深い眠りへ・・落ちていきました・・・・・・・ZZZ

 

7月30日

ついにロトルアを離れる日がやってきました。

7時15分に起床。
幸い二日酔いにはなってません。ほっ。

 

ルームメイトは全員眠っていたので、起こさないようにそっと準備。

ララが気付いたのか、少しだけシュラフのすそをめくりましたが、一瞬目が合うと、やはりモソモソと戻りました。

 

7時に起きると豪語していたトシさんは、やはり夢の中。
起きてよ~~と揺り起こすと、

「ああ、うん、起きてたよ・・」

誰がどう見ても寝ているトシさんを「あーた遅れるわよ!と」叩き起こし、階下のキッチンへ。

 

朝飯は簡単にビスケットかパンで済ますつもりでした。

調味料、バジルなどのハーブをはじめ余った食品関係は全て昨日までにモッチャンにあげてあります。

最近、ちょっと仲良くなった日本人女の子2人組みが、チャーハンを分けてくれたので、それをモグモグ。

ありがとう。

 

食事を済ますと、受付へ行き、ニールに預かってもらっていた荷物を受け取りました。

そして、チェックアウト。

キャサリンは用事があって出かけていたので、受付での最後の別れはニールだけでした。

 

巨大なバックパックと旅行カバンを持ち、玄関を出ました。
良く晴れています。

 

ニールが微笑みました。
「また帰っておいで。元気でやるんだよ」

「今までありがとう。また必ず帰ってくるよ」

固く握手をしました。
ニール、元気でね。
あんたはエエ奴だよ、ほんと。

 

モッチャンがニールの後ろから姿を現せました。

「まあ、間違いなく再会するから、気合いの入ったお別れはしないけど・・(笑)。今まで本当にありがとう。すんごく楽しかったよ。それとメッセージを書いておいたから、日本での生活に疲れたら読んで、ここでの生活を思い出してよ。」

「ありがとう。本当、最高に楽しかったよ。次は日本で会おうね!」

ぐっと力を込めて握手をしました。

 

この宿で会った人は皆いい人でした。
本当に素敵な思い出をありがとう。

「それじゃ、行くよ」
重い荷物に手をかけると、ガラガラと押して前へ進みました。

 

振り返って右手を振りました。
2人が返してくれます。

 


しばらくして、もう一度だけ振り返り、
左拳を突き上げました。

さようなら、友よ!

 

それにしても凄まじく重い荷物。
おそらく総重量は70キロくらいあると思います。

オキーフへ最後の挨拶をしに行くまでに汗ビッショリです。

 

こげ茶色の床に足を踏み入れる前に、スタッフの皆が僕らに気付きました。

ダグがいち早く、「HOW ARE YOU?」と挨拶してきました。

 

 

「BAD!」

 

死ぬほど荷物が重く、マジで弱っていたので嘘ではありません(笑)。

荷物が重くてさ~と軽くジェスチャーを交えて親指を立てました。

 

ダグは大笑いしています。
「トシ、お前の後ろを荷物が歩いてるぞ!」
と、僕を指差してゲラゲラ。

僕らも大きな声で笑いました。

 

朝の弱い日差しが入口付近に差し込んでいます。
相変わらず寒い店内です。

コーヒーを入れてしばらくダベってました。

そろそろバスの時間です。

 

「んじゃ、行くよ」

遂に来てしまいました。
お別れです。

 

マイクが裏口に止めてある車ですぐそばのインフォメーションセンターまで送ってくれるそうです。

ありがとうね、マイク。

 

そして、ダグは灰色の瞳に涙を浮かべて言いました。

「アスタラビスタ」。

 

一気に込み上げてきた熱い想いを、何かを、僕らふたりは必死で笑って堪えました。

ダグは、もう限界だったようで顔を背けると、「トシ、タロー。元気でやるんだぞ」

それだけを言って鼻をすすったのでした。

 

アスタラビスタは魔法の言葉。

いつも陽気なダグを涙させる不思議な言葉。

「さよなら」を意味するようなのですが、正確には分かりません。
結局、ダグは教えてくれませんでしたから。

 

「また会おう」
それだけを互いに言い合い、必死で笑顔を作って裏口の扉を開けました。

 

僕は溢れそうな涙を必死に飲み込んで、鼻の頭に浮かんだ汗を袖で拭いました。

後ろで、涙交じりの声でダグが、

「アスタラビスタ、SAYONARA!」
と言いました。

 

僕らは、この心優しいNZ人に出逢えたことを感謝しながらドアを開けました。
さようなら、ダグ。オキーフ。

 

初めてトシさんと出逢った時、それから何度も足を運んだ思い出。
インスタントのコーヒーの味。
店内に飾ってあった変な人形。

お別れの時間です。

 


インフォメーションセンター前に置いた僕らの荷物。
凄まじい量ですわ。

 

冬のNZにしては天気が良いです。
日も高くなり、強い陽射しが眩しい・・。

車から荷物を降ろしました。
そして、感動の・・

 

「じゃ、元気でな!」
ブオ~ん(車が去る音)

 

もっと別れを惜しまんかい!(笑)

 

マイク、淡白すぎるよ・・(笑)。

でもまあ、実はマイクが一番寂しがってくれていたとは思うのですが。

不器用な人(笑)。

 

お陰さまで(笑)、出掛かっていた涙が綺麗に引っ込み、僕らは最後のロトルアの日常風景を楽しみました。

冬の閑散とした街並み、すごく悪者顔のカモメ。
いいとこだなあ~(笑)。

 

バスが来ました。
え?これに乗るの?
っちゅうくらいの驚きです。

マイクロバスにトレーラーが付いています。
爺さん運転手さんが、「え、こんなに荷物があるの?」と驚いていました。

やべえ、超過料金取られんかなあ・・。

 

「重いから、そっち持って」

これだから好きなんですわ、この国が。

 


当然、記念撮影。

 

プシュ~という音と共にドアが閉まりました。

なぜかギギ~という異音を立てながらバスはゆっくりと走り出しました。

何度、走ったか分からない道です。
どの道にも思い出が詰まっています。

町を出ました。

 


隣町のハミルトン方面へ走ります。

 


トシさんは、感慨深げに景色を眺めています。

視線の先はロトルア湖。
もっと釣りたかったに違いありません(笑)。

 

モッチャンからのメッセージを開きました。

芸術家モッチャンならではの素敵なイラストが飛び込んできて、
そして熱いメッセージがありました。

ありがとう・・。
僕には良い友達ができました。

ダグの目を思い出しました。
一杯にたまった涙。
震える声。

 

アスタラビスタ。

優しい人達に出逢えたことを心の底より感謝し、ネイピアでジェームスやケイコさんらと口ずさんだ歌、「MY WAY」をバスに揺られながら心の中で静かに歌いました。

 

途中、休憩を取りながら遂にオークランドへ到着。
さあ、これからこのクソ重い荷物を持って街を歩かねばなりません。

これがメチャンコ重い!!!
しかも、この街、坂やら工事やら人間多すぎ~~~!

荷物が再び僕に課す地獄の試練のせいで、美しい街オークランドが嫌いになりそうでした・・(笑)。

オエ~オエ~と吐きそうになりながら歩く僕を見てトシさんは笑っています。

「いやさ、タロちゃん。悪いけどメチャンコ面白いわ。辛そうだから持ってあげるよ」

あ~り~が~と~・・・・。

 

ようやくワーホリセンターを見つけました。

なんで坂の上にあるんじゃい!
と散々、毒づきながら到着。

俺、死ぬ、もう死ぬ・・。
これで送れないなんっつたら悲しみ止らんな・・。

 

「このトランク死ぬほど重いですけど、大丈夫ですかね?」
恐る恐る聞いてみました。

担当のお兄さんが取っ手に手をかけます。
顔色が「マジで?」状態。

どーだ、重いだろ?ロトルアから持ってきたんだぞ~。

 

「それじゃ、そのカバンを持った状態で体重計に乗ってください。御自分の体重との差をここの用紙にご記入ください」

頬っぺたを引っ込めると、なんか少し体が軽くなるような気がしたので、ちょっとやってみました。

無駄でしたが(笑)。

 

「30キロオーバーですね」
「ええ~じゃ、辞書の類は機内持ち込みします・・」
310ドル也。

料金が高くなるのが嫌だったので我慢です。
というより、もうお金がありません。

 

なんとか荷物を済ませると、今度は宿探しです。
適当に目に付いたBPに決めました。

 

Queen St BP。

独特な雰囲気を醸し出しているマオリのおっちゃんに宿代を払うとチェックイン。

今回は貴重品を大量に持っているので、ツインルームをトシさんとシェア。
割り勘すれば安いですし。

さあ、荷物を部屋にぶち込むと体は羽のように軽くなりました。

そうだ、馬部さんに電話しなくちゃ。
挨拶行こうっと。

 

バスで馬部さんの家へ行ってみることにしました。

乗ってみたかったんすよね、市内の路線バス。

見知らぬ土地で乗る初めてのバス。
ワクワクです。

でも少し不安があったので乗る前に運転手に間違いないかを尋ねましたが。

 

久し振りの馬部さん宅は変わらずお洒落です。
入口には大きな木があって、外国の家っちゅう感じです。

飼っている猫は知らぬ間に僕の膝の上でくつろいでいます。
おぬし、いつの間に・・。

 

「どもども、お久し振りです」

馬部さんは、ついこの前までスペインで開催されたフライフィッシングの世界大会へ行っていたようです。そこでなんと15位!

世界ランクですよ。
これは凄いことです。

 

おいしいご飯をご馳走になりながら、今までのことを話し、おいとましました。

「今夜は泊まっていきなよ」
「いや~トシさんと一緒に宿とっちゃいました~」

帰りは宿まで送っていってもらいました。

 

ロトルアには無い、都会独自の夜の明るさにたじろぎながら、車窓から景色を眺めてました。

「それじゃ、タロちゃん、元気でな。色々とありがとう!」
「こちらこそ、お世話になりました!」

 

馬部さん、ありがとうございました。

ガイド修行という貴重な体験をさせていただいたり、NZ生活のイロハを教えてくださったのは馬部さんでした。

 

7月31日

今までの疲れがドバ~っと出たようで9時頃まで爆睡。

トシさんは街へ映画を観に行くと言ってました。

誘われましたが、なんかもう少し部屋でゴロゴロしていたかったので、
「トシさん、ごめんよ、アタイ眠いの」。

 

結局、昼まで無駄に時間を遣ってしまい少々罪悪感。

慌てて跳ね起きると、とりあえず飯。
フードコートへ、インドカレーを食べに行きました。

8ドル也。

 

街をひとりさみしくぶらついていると、トシさんから電話。
合流してフライショップへ遊びにいったりしました。

ああ、でもなんだか早くもロトルアが恋しくなってきました。

オークランドのような都会は僕のような田舎っぺには似合わないようです。

 

雨が降ってきました。
慌てて、アメリカズビレッジというヨット置き場付近の土産屋で雨宿り。

 

そのまま、何もすることなく、宿で19時40分までだべってました。

そして晩飯は再びフードコートへ。
今回はチャイニーズ。

凄まじい量と格闘し、帰りにコンビニでビールを買うと、宿のリビングでゴクゴク。

なんか虚しい・・。

 

そのまま無為な時間が過ぎようとしたいる時、女の子から声を掛けられました。

以前、ロトルアの宿で知り合った子でした。

いかん、名前を忘れた・・。
他愛のない話を少しだけすると、他の日本人の群れに帰っていきました。

彼女の先には、10人くらいの群れがいました。
あんな数でつるんでるんか・・。
すげえな・・。

 

NZ最後のベッドは、味気ない二段ベッド。
なんか、もっと感動が欲しかったっす。

 

8月1日

昨晩遅くにどっかのアホが道路で大声を出して叫んでいたので、目が覚めてしまい、2時半から朝までなかなか寝付けませんでした。

7時起床の予定でしたが、トシさんは言うまでもなく、僕までもがオークランドぼけしてしまったせいか、寝坊。

8時50分に起きました。

急いで荷物の点検をし、チェックアウト。

 

空港までのバス停はなんと宿の目の前。
ラッキー。
時間まで、朝飯食ってのんびりしてよう・・。

NZのサーモンの味にゾッコンな僕は、優雅にコーヒーを飲むトシさんの横で朝からサーモンロールを貪り、お代わりしようかどうかを真剣に悩んでいました。

 

時間に余裕が無かったので(正直にお話しますと、経済的に余裕が無かっただけです)、断念。

バス停で重い荷物を置いて待っていると、タクシードライバーが声をかけてきました。

 

「バスは13ドル。タクシーなら2人で25ドルだぜ」
「じゃ、乗るよ」

運ちゃんの会話に出てくる言葉は、旅人向けにするようなものばかりであったので、僕にも十分に理解できました。

走ること20分。

着いちゃいました。
イスを確保しましたが・・

11時半から20時50分まで何をしろっちゅうねん!!

この重い荷物が無ければ、もう少し街を楽しめたものを・・。

 


このままの姿勢で長い間、待ちました。
昨晩、寝不足だったせいか、ウトウト。

 

・・・・・・・・・・・・・・・。

そして、ついにチェックイン!
と言いましても、出発まで3時間近くもありますが。

 

チケットを見せ、無事にチェックイン。

機内持ち込みをしようと実は足元に巨大な荷物を隠しています。
釣竿はオーバーサイズということで預け入れしました。

「ありがとうございました~」
受付のお姉さんが言い終えた瞬間、何食わぬ顔をして40キロほどの荷物を持って入ろうとしました。

 

「あの、お客様、待って・・・」

ごめんなさい。

走って逃げました。

 

ふう。
これでよしと。

 

さあ、もう大丈夫だろうと油断したその時でした。
通路の脇にいたお姉さんから呼び止められたのです。

「お客様、ちょっとお荷物の重さを量らせてください」

「あ、これ?・・・・・・・・

 

 

Fragile!!(割れもんじゃい!)」。

 

何を言われようが、この一言で通しました。
貧乏人の僕にとっては死活問題ですからね。

このお姉さんはNZ人にしては粘り強く、苦戦しましたが、中身のパソコンやカメラなどを見せると納得してくれました。

言ってみるものです。

 

よし、これで唯一の心配事が消えました。
土産物を少しだけ買って、喫茶室へ。

 

「アールグレイティーを」
「はい、どうぞ」

と、渡されたのはカップに入ったお湯と、インスタントです!
全開のティーパック。

外国って何処もこんな感じなんでしょうか?

 

そして、死ぬほど待った搭乗です。
大韓航空のスッチーは皆、超美人。

「こちらへどうじょ~」
と、かわいい日本語で案内してくれます。

 

ゆっくりと機体が動き始めました。
滑走路に沿って点いている明かりがいつの間にやら眼下に見えました。
あっけなく、離陸です。

 


さようなら、ニュージーランド。
手ブレ全開ですが、オークランドの街の灯。

 

これから途中経由する韓国まで11時間です。

離陸後間もなく、ワインをもらいました。
大好きな白を選択。

その後すぐに機内食。

 


こんなのマメに撮っていた自分を褒めたい。
ビビンバは美味しかったっす。

 


幸いにも僕の隣は空席。

トシさん、ごめん。
俺、横になります。

いや~こういう時は小柄であることを本当に感謝します。

180センチ以上の長身トシさんには厳しい芸当です。
でも、やっぱ背は高い方がいいな。

 


機内。

 

韓国のインチョン空港に着きました。
雨が降ってます。

朝の5時半です。

とりあえず待合室へ。
フライトは9時20分。
でも格安チケットはこんなものなんでしょうね。

え、マシな方?

TVをぼーっと眺めていると、韓国の時代劇がやってました。
テレビ番組なんてどの国も同じ様なものなんでしょうね。

 

へ~韓国の古代の鎧ってこんななんだ~と感心しながら見ていると、突然、七三分けの頭をした中国人らしきオッサンがTVの前へ。

テレビにかぶりつきになると、凄い勢いでチャンネルを変えはじめました。

最後に落ち着いたのは、なぜかファッションショー。
マジで疑問。

 

オッサンを観察していると、意外と面白く、知らぬ間に時間がやってきました。
いよいよ日本へ帰る飛行機です。

 

乗り込む時にスッチーに「荷物が多くない?」
と聞かれましたが、テレパシーで会話中を装い、無事に通過。

これでよし。

 

日本まではあっという間です。
飛行機の小さな窓から懐かしい日本が見えます。

機内アナウンスが始まりました。

 

乗客は慌しく荷物の準備をしています。
シートベルトをしました。

上空から見える青い田んぼ。
小さな家々。

日本です!!

 

旅の終焉に付き物の甘酸っぱい感傷、
そして久々の帰郷からくる興奮。

 

「着いたね」
唐突にトシさんが言いました。

「うん」

帰ろう、家へ。

 

クソ重い荷物を担ぐと、通路に立ちました。
順番に降りるのを待ちます。

飛行機から出た瞬間、もわ~~~~っという熱い空気を感じました。

これこれ。
日本ですよ。

 

帰ってきましたよ。
ただいまです。

家に無事に着いたことを報告。

 

トシさんとは、ここでお別れです。
今まで、ずっと共に楽しい時間を共有してきた大切な仲間、トシさん。
今まで、ありがとう、これからも遊んでね!

 

日本の夏には不向きのボサボサに伸びた髪の毛をバンダナで押さえつけると、荷物が山積みになったカートを押しました。

僕は、この後、このクソ重い荷物を抱えて鈍行列車で東京の友人宅へ向かいました。

こうして約10ヶ月に及ぶ僕の長旅は終わりました。
長いようでいて、流れ星のように一瞬だった旅。

多くの出会いと別れ、経験。
僕は、ニュージーランドで過ごした日々を胸に、これからも楽しく生きていくとします。

 

今まで僕を支えてくださった皆様には、この場をお借りして御礼申し上げます。

出国前、旅先にまで熱いエールを送ってくださった皆様のお陰で充実した生活ができました。

本当にありがとうございました!

 

そして、
僕から一言だけ皆様へご報告を・・。

胸を張って言います。

素晴らしい旅でした、と。

 

完。

 


今後とも、中村太郎を宜しくお願いいたします!
(帰国直後のボサボサ頭に不精ひげで)