NZガイド修行日記 PR

第21話 遠く夜空の向こうには

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日記では、帰国までカウントダウン。

目をつぶり、今、こうして1年以上も前のことを日記を見て思い出して書いていると、あの頃の楽しかった日々が次々と目蓋の裏に浮かんできます。

でも、なんだか夢のようです。

確かにNZで暮らしていたけれど、とても遠い記憶のような、そんな妙な感じがあります。

こうやって旅の思い出はセピア色になっていくのでしょうか。

少なくとも、日記をつけていたのは正解でした。
もし、この先、思い出が色褪せても、日記を辿って目をつぶれば、再び楽しかった過去を鮮明に思い出すことができます。

次回、他所の土地を旅する時も日記は必ずつけようっと。

 


NZのブランコ。

 

7月20日

朝、二日酔い気味のオッサンを送り出し、オキーフへ。

湖くらいしか気軽に釣りに行けない時期なので、釣具屋通いが日課になりつつあります。

 

再びコロマンデルへ鯛釣りに行く予定なので、ラインを巻き替えました。
作業中の僕に店主のマイクが話しかけてきます。

「TARO、帰国したら何をするんだい?」

「うーん、そうだねえ、ライターか子供らにフライを教えるような仕事をやりたいんだ」

帰国か。
そう、あとわずか。
色々あったNZ生活も残すところ10日ほど。

 

マイクに思わず話した、フライを教えるという仕事。
日本では、それだけで食える人はまだいない。

でも、この時、僕はハッキリと「やってやる!」と誓っていたのでした。

 


散歩コースであるロトルア湖畔。
ハトにウンコをされないようにテクテク歩きます。

 

宿に帰ると、モッチャンがいました。

「タローくん、F&C(フィッシュ&チップス。イギリス文化の代表ともいえる芋と魚の揚げ物)って美味い?」

「そうだねえ、間違いなく腹は膨れるけど、味は好みかなあ。食べに行くか?」
「うん。連れってって」

というわけで、F&Cを求めてロトルアの町へ繰り出しました。

繰り出すと言うよりも、小さな町なので、サンダル履きで「ちょっとその辺まで」という感じですが。

 


宿の近くにあるF&C。
結局、この店が最も近くて、量も手頃なので利用頻度は高かった。

 

いざ探してみると、これが意外と少なかったりします。

いや、それなりに数はあるのですが、モッチャンのデビュー戦に相応しいような変わった店をさがしてました。

スーパーやマックが並ぶ前の通りに、なんだか怪しげな看板があったので、そこに決めました。

というより、歩き疲れていたし、腹も減っていたので、

 

ここでいいんじゃん?

と、実にあっけなく決定。

店に入ると、誰もいません。
NZではよくあることです。

「おーい、誰か~」
と言うと、奥からオバちゃんが出てきました。

ポテトと魚と蟹のカマボコのフライを頼みました。
5分ほどすると、皿にドカッと乗った揚げ物軍団がやってきました。

 

「こんなに食えないっすよ」
「でも、意外と食えちゃうもんだよ」

一口、ぱくり。

 

 

すげえ、辛れえ。

 

何これ?
っちゅうぐらい辛いポテト。

どうやらオバちゃん、張り切って塩をかけてくれたようです。

 

どう?おいしい?
という感じの視線を送ってきたので、反射的にニッコリ微笑んでしまいましたが(そこはやっぱり日本人)、これ、マジで辛い。

辛い(からい)というよりも、

 

 

辛い(つらい)

アツアツで激しょっぱいポテトを泣きそうになりながら頬張りました。

「タローくん、俺、もうF&Cはいいよ」
「モッチャン、これは特殊だよ・・」

どうにか腹に詰め込むと、ヨロヨロ店を出ました。

こんなことなら、宿の側にあるいつもの店にすればよかった・・。


ちなみにこんな感じです。
凄い量です。
2ドルも出せば、芋がこれくらい出てきます。

ワシを太らせてどうする気じゃい?
というほどの量です。

 

宿でくたばっていると、リュージ君がどこからともなく帰って来ました。
暇な彼は散歩をしていたようです。

「え~F&C食いに行ったんすか~?いいなあ、俺も行きたいな~」
当分、先にしてくれ。

この日の井戸端会議の議題は英語の習得についてでした。

勉強嫌いの僕とモッチャンは、直接会話して実戦で鍛えよう派。
反してリュージ君は机勉強派。

あーだ、こーだと話し合っていると、ちょうどそこに外人がやってきました。

今晩、同室となるオランダ人のフランク、イングランド人2人。
彼らは、夕方なのにすでにヘベレケ状態で、実に陽気でした。

いい機会だから、話しかけようということになり、メチャクチャな英語に奴らをつき合わせました。

そんなこんなで、この日はおしまい。

 

7月21日

今日も暇。
やることないし。
映画でも観に行くか。

リュージ君を誘うと、ついてきました。

ターミネーター3がちょうど始まる頃で滑り込みセーフ。

今まで観た中では一番、聞き取りやすい英語で内容も簡単というのも手伝って、よく理解できました。

そして、宿へ。
本棚を見ると、新しい本が増えていたので早速、貪り読みます。

本好きの僕は、とにかく日本の小説に飢えていました。

文庫本だったので、2時間ほどで読破。
やべえ、勿体無い事をしてしまった。もっと大事に読めば良かった・・。


読書室、兼、おしゃべり室。
今まで、ここは随分と利用させてもらいました。

 

6時くらいになるとシャワーが混むので、一番に浴びたれ。
ということで毎日4時半ごろにはシャワーを済ますことにしています。

随分と伸びきった髪・・。
櫛でとかすと、肩まであります。

知らない内に伸びちゃったなあ・・と感慨深げに鏡を見つめました。

この日も特に何があるわけでなく、終了。
ロトルアらしく、平和な1日でした。

 

7月22日

今日から、トシさんとコロマンデルへ行く約束。

これが最後の鯛釣りになるから気合い入れて頑張ろう!
と、準備は万全にしておきました。

フライも仕入れたし。
トシさんはタックルを新調しました。

 

コロマンデルへ突入する前にスーパーで買出し。
釣り場近くは物資が乏しいので、早目に食料を調達しておく必要がありました。

やっぱ肉でしょ。
ということで、カゴには肉ばかり。
(酒は言うまでも無く)

 

そして、お世話になるガイドボートのいるモーテルへ。

ここでキルウェルのエディーさんと待ち合わせをしています。
彼は、鯛釣り名人として、この道では名の知れた方です。

「はじめまして、こんにちは!」
挨拶を交わし、明日からの釣りの打ち合わせをしました。

奥さんと犬を連れていました。
モーテルを出る時に、見知らぬおじさんが鯛を1匹分けてくれました。

 

さて、僕らはこの高いモーテルに泊まるほどリッチではないので、さらに北にあるオンボロのバックパッカーズホテルへ向かいました。

以前、リュージ君と会った所です。

庭の羊の親子は相変わらず元気で、部屋も相変わらず汚かったです(笑)。

 

あれ?
今日は先客がいるぞ?

4人組の白人でした。
男女半々。

名前は、イスマル(♂フランス)、ジェームス(♂イングランド)、エマ(♀アイルランド)、ライアン(♀カナダ)。

彼らは実に気持ちのよい連中でした。

ライアンが、
「もし良かったら、一緒にご飯を食べない?」

僕らは侘しく食べるつもりだったので、大喜び。
「いいの?それだったら刺身を提供するよ」

イスマルが反応しました。
「刺身?マジで?俺、好きなんだよね~」

ジェームスも、
「俺も、寿司は食べたことあるよ。とってもヘルシーなんだよね」

前回、散々、鯛は捌いたので、今回はとてもスムーズにできました。
皿に切り立ての鯛の刺身が並びます。

女性陣は刺身に抵抗があるらしく、恐々と食べていました。
イスマルは、すごく気を遣うナイスガイで、

「もっと食べていい?うわ~おいしいな~、エマ、ライアン、食べないなら俺、食べちゃうからな~」
と、結構、無理して頬張っていました。

いやいや、無理しなくていいんだよ。
と、英語で言えれば良いのですが、僕がしゃべれるわけも無く、

完食してもらいました(笑)。
ごめんね、イスマル。

かなりご馳走になったので、僕らは酒を提供しました。
ビールと白ワインがたくさんあります。

明日の釣りに支障がない程度に適度に飲みました。

 


ソファに座っている向かって左から、
トシさん、ライアン、イスマル、エマ、ジェームス。

今まで出逢った白人の旅人の中で最も素敵な仲間となりました。

 

7月23日

眠い目をこすり、6時に起きました。

耳元でサイレンが鳴っても決して起きることが無いトシさんをムリヤリ叩き起こすと、出発準備。

この朝はとても寒く、路面が凍っていたので慎重にドライブ。
ギリギリセーフでした。

暗い中、手早く荷物を詰め込むと、いざ出船!

船は白波を立てて、島々を縫っていきます。
徐々に空は明るくなり、何ともいえない美しい景色でした。

この朝マヅメが大きなチャンスなので、僕らは必死で竿を振りました。

数回バイト!
しかし、どういうわけかヒットせずにキャッチはゼロ。

エディーさんは流石といった感じで、50cmほどのを2匹キャッチ。
こうして初日の釣りは終わりました。

釣りの後、エディーさんの部屋でお茶を飲みました。

「TOSHI、コーヒーと紅茶はどっちがいい?」

「ええと、T・・」

 

 

「TORIは?」

またかよ!
また新しく名前を付けられてしまった・・。

トリか。

奥さんも、TORIって呼ぶし。
犬は何もしゃべらんし。

ま、いいか。

 

楽しいおしゃべりの後、再会を誓い、サヨナラ。
別れ際に鯛釣り用のSTヘッドをもらいました。

すんごく重い奴で、なるほど、これなら鯛がいる8mラインに沈められるなあ、と感心。

そういえばトシさんは、シンクティップラインなので、大苦戦してたなあ。

やっぱかなり沈めないとダメらしい。

 

さあ、宿に帰ってのんびりしようか。
戻ると、誰もいませんでした。
オシッコしようっと。

洗面所に入ったときに外が賑やかになりました。
どうやらイスマルたちが帰ってきたようです。

潮で汚れた手を洗い、トイレのドアを開けました。

便器の上には電灯のスイッチがあります。
貝でできていて、お洒落でした。

チャックを開けたまま、眺めていたのですが、うっかりドアのカギをするのを忘れていました。

突然の足音に気づいた時には遅く、エマがトイレのドアを開けました。

一瞬、目が合って悲鳴が上がりました。

 

 

「ジ~~~~ザス!」

 

ジーザス?何が?
見られちゃった。
アタイ、お婿にいけない。

悲鳴に驚き、僕は恥ずかしい格好のまま、飛び跳ねてしまいました。

遠くではエマの叫びが聞こえます。
そして、ライアンの豪快な笑い声が聞こえました。

 

ごめんね、エマ。

僕らは、なんだか居場所が無くて、逃げるようにドライブへ行きました。
コロマンデル最北端へ行こう。

岸に打ち寄せる群青色の波。
ここまで来ると、海の色がまるで沖のそれのようになっていました。

適当に走ると、海沿いの芝生に一頭の白馬がいました。
こちらを見ることも無く、黙々と草を食んでいます。

絵本のような世界の中で、僕らは芝生に寝転がって昼寝をしました。

目をつぶると、太陽の温もりを目蓋に感じました。
風は優しくそよぎ、気付けばぐっすり寝てしまいました。

気付けば、夕方。
やべえ、もう帰らないと!

なんだかんだと20キロ近く走ってきたので、帰りもグネグネ道をトシさんは気合いで運転しました。

トシさん、お疲れ様です、ありがとう。

 

宿に帰ると、4人組がいます。
イスマル「TARO、釣れたかい?」

「いや~ダメだったよ。でも、明日は刺身をご馳走するよ」

「・・・・。僕らは明日、帰るんだ。今日がNZ最後の夜。明日は、空港まで真っ直ぐに行くのさ。そして、僕らはまた散りじり。だから、今夜は大いに盛り上がろう!」

ええ、もう帰っちゃうの?
4人組は、寂しそうな気持ちを隠すようにして陽気に振舞っていました。

イスマル「今夜は、俺たちに飯を奢らせてくれ。最後の旅の食事に付き合ってくれないか?」

「オフコース!!!喜んで。」

シチューや肉、それぞれの国の料理を作ってくれ、僕らはワイワイやりながら食事を楽しみました。

食後は、隣の家で演奏会をやるらしくて、皆で行こうという話になりました。

外へ出ると、そこには満天の星。

満天です。

そこら中に大粒の星がきらめいています。
僕らは、何も言わずにしばらくの間、眺めました。

イスマルが夜空の向こうを指差しました。

「日本はあっちだろ?俺の国はあっちだ」

真っ黒のキャンバスに米粒をばら撒いたような星空。
その先に僕の国はあります。

「イスマル、俺らもあと少しでこの楽園から帰るんだ。旅の最後に良い思い出をありがとう」

「こちらこそ。また今度、刺身を食べさせてくれよな!」

「ああ」

そこにいた全員が、それぞれの母国を思いました。

旅にはいつか終わりが来る。
帰る所があるから、人は旅ができるんだ。
と、だれかが言っていたのを思い出しました。

 

7月24日

7時起床。
凍えるような冷気が安っぽい壁の隙間から遠慮なく入って来ます。

居間へ行くと、イスマルが暖炉に薪をくべていました。

「おはよう、TARO。待ってろ、今すぐ暖まるからな。お茶か何か飲むかい?」

なんていい奴なのでしょう。
どんな時も、周囲に気を配る優しいイスマル。

トシさんが起きてきたので、インスタントパスタの朝食を取り、出発。

イスマル以外は寝ていたので、彼に宜しく伝えておいてもらうことにしました。

さようなら、みんな。
また、どこかで逢いましょう。

ルームミラーの中でイスマルは、ずっと手を振り続けていました。
窓から身を乗り出し、BYE-BYE~!

 

さあ、釣りです。
今日は気合いを入れて午前と午後の両方で予約しています。

キャプテンのマークは「昨日の午後はイルカが見えたぞ」と話していたので僕らは大興奮。

しかし、釣りの方は今ひとつ。
小さなアタリが1回あったくらい。

午前も終わる頃、ようやく僕のスキナーミノーにヒット!

30センチくらいのお子様サイズでした。
トシさんは、新しいタックルが使いにくく、深度が取れないので大苦戦。

ここで午前の部は終了。

マークは責任を感じたらしく、午後は釣らせるから!と張り切っていました。
コーヒーを飲んで、のんびり。

 

そして、数時間後。
再度、出船!

ガイド仲間のピーターは別の場所で竿を出しながら情報を逐一無線でくれました。

このお陰で、僕らは夕方、良い場所に当たりました。

50センチくらいの鯛を連発。

トシさんは、とんでもなく大きな魚を掛けましたが、無念のブレイク。
なんだったんだろう、ヒラマサかなあ?

帰りの船中で、僕らはマークにねだりました。
「明日も予約したいんだけど!」

マジで?マークはビックリしています。
でも、あんたら好きやなあ!!という感じでニコリと笑い、OK。

こうして僕らは再び、明日も鯛釣りに興じることになりました。

 

宿に帰ると、こんな辺鄙な場所なのに、なんと5人もの旅人がいました。
彼らは、なぜかひどく疲れていて、大して話すことなく、それぞれの部屋に戻りました。

 

7月25日

泣いても笑っても、今日がNZで最後の鯛釣り。

思い残すことなく、良い釣りをしよう!
と僕らは盛り上がりました。

トシさんは、昨晩、眠い目をこすってタイイングをしていました。
僕は不精者なので、酒飲んで寝てました(笑)。

マークも気合いが入っていました。
今日は最高の釣果を約束するとまで断言していました。

しかし、潮と風に愛想をつかれ、50センチくらいのは釣れたものの、尾数は伸びませんでした。

でも、思い残すことは何もありません。
最高の釣りで締めくくれました。

 

さあ、予定を延ばしてムリヤリ釣りをしたので、強行軍で帰らねばなりません。

眠い目をこすりまくってロトルアを目指しました。
トシさんの気合いのドライビングで3時間掛からずに到着。

宿の予約をすると、早速キッチンへ向かいました。
鯛が傷む前に切り身にしなければなりません。

 

何十匹もここ何日間で捌いたせいか、切るのがうまくなりました。

大きな鯛を刺身にすると、皿に盛りました。
それを見た韓国人の女の子が、おいしそう。
と言っていたので急遽、韓国人たちと宴会スタート。

リュージ君も混ざって、みんなで刺身パーティーをしました。
片言の英語でワイワイ楽しく飲みました。

NZでは刺身を食べる機会があまり無いので、やはりアジア圏の旅人には喜ばれます。

釣ってきた僕も喜んで食べてもらって嬉しかったです。

 


向かって左から、パク、ジェリー、ソニ。

この晩のルームメイトに面白いインド人がいたのですが、これはまた次回に。

 


真ん中にいるのが、プケコという鳥。
ひょうきんな動きをするので愛嬌があります。

 


誰もいない深夜のキッチン。
遅くまで飲む場合は、ここで。

 


いつもの散歩コースにある子供向けのアスレチック。
寝転がっていると、子供につつかれます。